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小児てんかん

聖隷浜松病院てんかんセンター 榎 日出夫

 

これって、もしかして「てんかん」?

 聖隷浜松病院てんかんセンターでは、毎日のように子どもの「てんかん」と向き合っています。
 「1日に何回も意識が飛ぶ。目つきが変わって呼んでも返事をしない」(5歳女児)、「しょっちゅう体がぴくっと動く。たまに倒れて気を失う」(14歳女児)、「ときどき倒れる。テレビゲームのときが多い」(12歳男児)。
 この子たちは、てんかんと診断し、内服薬で治療を行いました。今ではみんな良くなっています。
 一方で、てんかんではないと診断したケースもありました。「眠ると手足がびくっと動く」「走っていて倒れた」などです。
  てんかんなのかどうか。確実に見分けて、必要な治療を行う。これが私たちの仕事です。今日は子どものてんかんについて、治療の流れをお話ししましょう。

 

子どもに多い病気

 「お子さんの病気は、てんかんです」と診断を告げると、びっくりされるお母さんが多いですね。「大変なことになった」「どうしよう」「治るのか」「学校へ行けるのか」「大人まで続くのか」など、いろいろな心配がいっぺんに頭の中で渦巻いて、心配な気持ちになるも当然です。
 てんかんは、子どもに多い病気です。発症年齢をみると、全体の7割が子どもで、特に4歳以下の乳幼児に多いことがわかります。成長期の子どもがかかる慢性病の中で頻度が高い病気です。たとえば聖隷浜松病院では、小児科外来の通院患者のうち、てんかんの割合は1割を越えます。

年齢とてんかん発症率

 

専門医が不足している

 てんかんを専門とする医師はとても少ないのです。「日本てんかん学会」が認定した「てんかん専門医」は、全国で約300名に過ぎません。がんや心臓病に次ぐほど多い病気にもかかわらず、てんかんを専門とする医師はわずかです。専門医の名簿は日本てんかん学会のホームページ(http://square.umin.ac.jp/jes/)に公開されていますので、お近くの専門医を捜すことができます。
 

症状は発作

 てんかんというと「手足の激しいけいれん」を想像される方が多いでしょう。発作の種類は多彩です。意識が残ったまま、体の一部分がぴくぴく動くこともあります。動作が止まり、意識がぼんやりする発作もあります。正しい診断の第一歩は、発作の様子を詳しく把握すること。診察室で医師の目の前で発作を起こすことはまれですから、私たちは発作を目撃した人から様子を詳しくお聞きします。
 「何をしているとき」「体のどこが」「どんなふうに」「どのくらいの時間」など。

子どもの発作を目の前にして、冷静に観察できすか?気が動転して、どうしていいかわらかなくなるのが普通でしょう。でも、発作の観察は診断の精度に大きく影響しますので、しっかり見てほしいのです。
 

わかりにくい発作

 「両腕をびくんと突っ張って、頭を前に曲げる」。生後9か月の赤ちゃんです。一瞬の発作ですが、何回も繰り返して数分間続きます。「点頭(てんとう)てんかん」でした。これは乳児の重症てんかんで、「お辞儀をするように首を前に曲げ、両腕を上げる、一瞬の動き」を繰り返します。お母さんはしゃっくりかなと思っていました。まさか、けいれん発作だとは思わなかったそうです。初期には症状が軽いことが多く、見過ごされやすいのです。

 別の例を挙げましょう。小学生の男の子。日中は元気で何も症状がありません。夜、眠っていると、大声を上げて暴れます。手足を大きく振り回すのですが、すぐに治まります。「夜驚症(夜泣き)」と区別が難しいですね。この子の場合は脳波に異常があり、てんかん発作でした。
 

発作型は何か

 発作の種類のことを「発作型」といいます。てんかんには多くの発作型があります。てんかんの診療は、まず発作型を判定することから始まります。たとえば冒頭で紹介した5歳の女の子。意識が遠のく発作を繰り返しています。ぼんやりして意識レベルが低下しますが、手足にけいれんはなく、倒れません。この場合、2つの発作型が考えられます。「欠神発作」と「複雑部分発作」です。私たちはこの2つを問診によって区別するトレーニングを受けています。発作の症状を詳しくお聞きすれば、問診の段階でほぼ診断がつきます。後はその診断が正しいかどうか、検査で確認すればよいのです。
 

大切な脳波検査

 脳の電気活動を調べる検査法です。電極を糊とテープで頭皮に貼り付けて記録します。痛みはありません。安全な方法ですから新生児でも検査が可能です。
 脳波で「てんかん性発射」と呼ばれる異常波形を確認します。てんかんは、脳細胞の過剰興奮によって発作を生じる病気です。この過剰興奮を脳波で確認するのです。
 通常は、普段の状態を脳波で調べます。普段の状態というのは、発作がないときの検査のことで、これを「発作間欠期脳波」と呼びます。特に眠った状態では異常波形を検出しやすいので、私たちは「睡眠時脳波記録」を重視しています。
 発作間欠期脳波で診断を確定し、治療を開始するのが一般的です。ところが、発作間欠期脳波に異常が現れないこともあります。この場合、発作中の脳波を記録することができれば、診断精度がぐんと上がります。これを「発作時脳波」と呼びます。

 治療がうまくいっているかどうか。薬物治療を始めて脳波が良くなったかどうか。治療効果の判定にも脳波は役に立つのです。
 

発達とともに変化する脳波

 子どもの脳波は年齢とともに変化していきます。新生児、乳児、幼児、学童。それぞれの年齢ごとに脳波の特徴を理解しておく必要があるのです。この点で、大人に比べ、小児の脳波判読には高度な技量が求められます。小児脳波の判読については専門的なトレーニングが必要です。
 

てんかん分類の診断

 てんかんには種類が多く、細かく分類されています。それぞれの分類ごとに治療法が異なるのです。てんかんの分類は何なのか。病型の診断が正しければ治療効果はぐんと高くなります。逆に、病型診断が不適切ですと、治療が進みません。
 どうやって分類するのでしょうか。「発症年齢」「性別」「家族歴」「既存の脳障害の有無」「診察所見」「発作の出現のタイミング」「発作型」「随伴症状」「脳波所見」など。さまざまな項目から総合的に判定します。

 まず、問診で診断を予測し、脳波検査で確定する。治療は確実な診断の元に開始します。てんかん分類の診断があやふやですと、治療は成功しません。
 

どの薬を選ぶか

 治療の基本は内服薬です。治りにくい場合にはてんかん外科手術も考慮されますが、まずは内服薬の効果を十分に試します。
 数多くの抗てんかん薬が用意されています。それぞれの薬に特徴があり、得意分野が違います。「治療がうまくいく」のは「正しい薬を選んだ」場合ですね。薬の選択は、発作型とてんかん分類の診断に基づいて決めます。
 脳が過剰に興奮して発作を起こします。興奮部位はどこか。それによって、症状も経過も異なります。専門医は症状をお伺いして「前頭葉だな」とか「後頭葉だな」と、およその部位を予想します。脳波検査の結果と併せて検討し、てんかん分類を決めます。
 このような分類作業によって適切な薬が絞り込まれます。逆に分類の診断を怠っていては、適薬を選ぶことができません。発作が止まりにくい場合には、てんかん分類の診断が正しいかどうか、振り返ってみる必要があります。
 たとえば先ほど紹介した「意識が遠のく発作」をおこす5歳の女の子。私たちは問診から「欠神発作」と推察しました。つまり「複雑部分発作」ではないと考えたのです。脳波検査の結果は、ずばり「欠神発作」でした。さっそく欠神発作用の薬を開始して、すぐに発作は消失しました。欠神発作には複雑部分発作用の薬は合いません。逆の薬を使えば、なかなか治らないばかりか、かえって発作が増えてしまうこともありますから、細心の注意が必要ですね。

  「どんな発作なのか」「てんかん分類は何か」。発作型と分類を正しく診断することが、てんかん治療の第一歩です。
 

日常生活

 睡眠と発作は関係が深いのです。睡眠不足は発作を誘発します。たっぷり眠るのも治療のうちです。修学旅行では寝不足になりやすく、薬を飲み忘れることがありますから注意して下さい。
 運動によって発作が増えることはありません。スポーツに熱中しているときは、むしろ発作は出にくいのです。しかし、運動中に偶発的な発作が出ないとは限りません。もし水泳中に発作がおきたら溺れるかもしれません。プールでは、万一に備え、すぐに助けられる監視体制が必要です。海での遊泳は避けましょう。
 入浴中の発作で、風呂で溺れる事故がおきています。「家族と一緒に入る」「声をかける」といった配慮が必要です。

 予防接種は発作を誘発することがあります。麻疹ワクチンは接種後に熱を出すことがあり、このとき発作をおこす危険があります。しかし、麻疹は重い病気ですから予防する価値があります。発作が落ち着いたところを見計らって、接種を受けた方がよいでしょう。
 

治療のゴール

 この病気は治るのか、治らないのか。よく質問を受けます。子どものてんかんは大人に比べると治りやすい特徴がありますから、根気よく治療を続けてください。大半の子どもの発作が消失します。数年の内服治療を続け、脳波の所見が良くなったら断薬します。断薬後には再発の有無の確認し、再発がなければ通院終了となります。おおむね8~9割の子どもがこの段階まで到達することができます。時間はかかりますが、一緒にがんばりましょう。