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てんかん外科

聖隷浜松病院てんかんセンター 山本 貴道

 

てんかんの外科治療とは頭蓋内に直接、センサーとなる電極を留置して発作の発生源を正確に判断し、特定した部位を切除する治療です。
てんかんの外科治療は以下の場合に考慮されます。

 

  • 1.適切な複数の抗てんかん薬を服用しても発作が十分に止められない場合。
  • 2.各種抗てんかん薬に対する薬疹などのアレルギー反応で服用ができず、発作に対して外科治療以外に手立てが無いと判断された場合。

1の適切な複数の適切な複数の抗てんかん薬を服用しても尚、発作が消失しない例は全体の2~3割に及ぶと考えられています。


発作が止まっていない場合、まず何をするべきでしょうか。第一歩は発作を正確に分析するところから始まります。

 

第1段階(PhaseⅠ;フェーズⅠ)

頭皮での長時間脳波モニタリングです。LTMと略します。LTMの目的を列挙すると、

  • ・発作は具体的にどのような症状なのか。
  • ・脳波では発作の発症源ははっきりわかるのか。
  • ・抗てんかん薬の変更など、調節を再度行うか、てんかん外科を行うか。
    などを念頭に検査を行って行きます。

「診療科・部門紹介」の「てんかんセンター」のところにも記載していますので、そちらもご参照ください。
http://www.seirei.or.jp/Hamamatsu/section/208.html

 

Nicolet One TM
(カージナルヘルス社・ミユキ技研)

ベッドサイドに置き脳波を記録しながら発作の様子を捉える。

当てんかんセンターでは、2009年4月よりLTMを行う場合には、2種類の方法を使い分けています。通常使われるLTMはNicolet One TM  (ニコレー・ワン)と呼ばれるビデオ録画機能付のデジタル脳波計で行われます。

 

もう一つの方法は高密度センサー脳波計測システム(dense array EEG)と言われ、当院が本邦では初めて臨床の現場に導入しています。詳細は後述の脳波解析室のところをご参照ください。

第2段階(PhaseⅡ;フェーズⅡ)

さて発作を止めるために外科治療が計画される場合、脳波の所見・MRIなどの画像所見が明らかに一致する場合には、例えば側頭葉てんかんの場合には、この第2段階をスキップして第3段階の切除術を直接行う場合もあります。しかし多くの例では、脳波と画像だけでは情報が不十分な場合が多く、頭蓋内に電極を留置して、更に詳しい焦点に関する検査を行います。留置する電極には写真に示すように様々な形状の電極が用意されています。これらを必要とされる頭蓋内の場所に合わせて選択、組み合わせていきます。つまりこの第2段階から手術ということになります。※手術の場合にはリスクについてもご判断いただけるように説明をいたします。

画像右よせ1枚最大260px

様々な形状の頭蓋内電極。手術ではこれらを組み合わせて使用する。

(ユニーク・メディカル社製)

この電極を留置した状態で基本的には1週間、詳細に調べます。発作を起こした時には図の赤矢印に示すように、発作の発生源となった電極から速い波が出現する様子が観察されます。後述の脳波解析室では、PC上で様々なソフトウエアを駆使し、発作の発生源を割り出していきます。

画像右よせ1枚最大260px

第3段階(PhaseⅢ;フェーズⅢ)

第2段階で割り出された発作の発生源を処置するのが第3段階です。その方法には大きく分けて、

  • ・切除術
  • ・遮断術

の2種類が存在します。基本的には切除術が最も望ましい方法であり、根治術と考えられます。切除術の中で頻度が高いのは側頭葉や前頭葉の手術です。切除術とは文字通り、発作を出している部分を切り取ってしまうので、その部分が脳の中で大切な機能を担当していないことが前提です。切除術では側頭葉切除術が最も成績が良く、7-8割の例で発作が消失します。

脳を切除してしまうことに不安があるかもしれませんが、発作のくり返しにより脳の正常な部分へのダメージが続くことを考慮する必要があります。また、切除術後の知能指数(IQ)が術前よりも向上した事例が多数報告されています。

もし切除しようとしている部分が大切な機能を担っている場合はどうしたら良いのでしょうか。これは第2段階で頭蓋内電極を入れている間に、その電極を利用して脳を微弱な電流で刺激することで、機能を持っているか否か、判断することができます。大切な機能を有する部分を切除すれば、その機能が無くなり後遺症を残しますので切除術は好ましくありません。そのような場合、緩和的な(発作頻度を減らす)意味になりますが、遮断術と言って、発作の波が周囲に伝わるのを妨げる方法を取ります。遮断術には脳梁離断術(corpus callosotomy)や軟膜下多切術(multiple subpial transection; MST) があります。



 

入院期間は術後のリハビリを含めて、フェーズⅡを経てフェーズⅢとなった場合は約1ヶ月。フェーズⅢのみの場合は約2週間です。手術後に発作が止まる、もしくは改善していれば、患者さまのお住まいの近隣の診療所や病院に連携のお願いをしていますので、ご自宅から近い医療機関で術後のフォローアップが受けられます。


 

スタッフ紹介

■山本貴道センター長

【略歴】
1986年、浜松医科大学卒業。同年、植村研一初代教授の主宰する脳神経外科学教室入局。
1987年、聖隷三方原病院脳神経外科にて米国より帰国された堺常雄部長(現聖隷浜松病院院長)より脳神経外科のトレーニングを受ける。米国医師資格(ECFMG Certificate)取得後、1998年、渡米。ニューヨーク州立大学シラキュース校(State University of New York, Upstate Medical University, Syracuse, NY)では損傷を受けた脳が機能回復に至る過程を研究しニューロリポート(NeuroReport)誌に論文発表。
2001年、ニューヨーク大学医療センター(New York University Medical Center, New York, NY)へ移籍。臨床フェローとしてニューヨーク大学てんかんセンター(NYU Comprehensive Epilepsy Center)にて、米国で多数行われているてんかん外科の技術を学んだ。この間、ワールドトレードセンターでの同時多発テロを経験。
2004年、ニューヨーク大学ワグナー公共政策大学院(New York University Wagner Graduate School of Public Service)を修了し医療管理学修士を取得。同年、帰国し聖隷浜松病院着任。
2008年、同てんかんセンター設立と同時にセンター長就任。

 

【2008年以降に行った講師或いは特別講演等の活動】
・2008年 1月 「てんかんの外科治療」浜松市民公開セミナー『パーキンソン病とてんかんの話・外科治療の最前線』(アクトシティー浜松)
・2008年 8月 「リハ医が知っておくべきてんかんの基礎知識から外科治療まで」日本リハビリテーション医学会専門医・認定臨床医生涯教育研修会(静岡グランドホテル中島屋)
・2008年10月 モーニングセミナー「難治性てんかんに対する迷走神経刺激療法」第42回日本てんかん学会共催セミナー(リーガロイヤルホテル東京)
・2008年11月 「てんかん医療における外科治療の役割」第62回静岡県合同難病医療生活相談会(クリエート浜松)
・2008年11月 「てんかんの外科治療」治験・臨床研究活性化推進のための市民公開講座『てんかん治療の最前線』(豊橋商工会議所)
・2008年12月 特別講演「難治性てんかんに対する迷走神経刺激療法」第35回多摩てんかん懇話会(立川市市民会館)
・2009年 1月 ランチオンセミナー「迷走神経刺激療法-本邦における保険適応承認後の影響と期待」第32回日本てんかん外科学会(東京ステーションコンファレンス)
・2009年 5月 「てんかんの外科治療」治験・臨床研究活性化推進のための市民公開講座『てんかん治療の最前線』(沼津市立図書館)
・2009年 6月 特別講演II「てんかん学の新しい潮流 – dense array EEGとvagus nerve stimulation」第6回広島けいれんフォーラム(ホテルセンチュリー21広島)
・2009年 7月 特別講演「迷走神経刺激療法 – 本邦におけるてんかん外科学の新たなる展開へ向けて」平成21年度高知大学医学部脳神経外科同門会総会(高知大学医学部)

■藤本礼尚主任医長

【略歴】
1998年、筑波大学卒業。能勢忠雄教授率いる筑波大学脳神経外科教室に入局し研修を行う。
2004年、亀山茂樹先生のもと西新潟中央病院てんかんセンター脳神経外科で2年間てんかん治療と定位的脳神経外科手術を含めた機能的脳神経外科治療に携わる。
2006年、大坪宏先生のもとカナダ・トロント小児病院(The Hospital for Sick Children, University of Toronto, Toronto, Canada)てんかんモニタリングユニットに臨床研究フェローとして留学し,てんかんの基礎研究、臨床研究、脳波、脳磁図に従事する。
2008年、側頭葉てんかんの外科手術の有為性を示したS.Wiebe先生,臨床教授N.Pillay先生、てんかん外科医のW.Hader先生のもとカナダ・カルガリー大学(University of Calgary, Calgary, Canada)てんかん外科プログラムで臨床脳神経外科フェローとして成人(Foothills medical center)、小児(アルバータ小児病院)の多数のてんかん症例を診察し多数のてんかん外科手術症例を主執刀する。
2009年、日本人では5人目のカナダてんかん専門医(CSCN)に合格し脳波Board取得医と認定される。 2009年、「小児難知性てんかん患者における完全静脈麻酔の脳磁図への影響」[Brain Dev. 2009 Jan;31(1):34-4]で筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科を修了し医学博士取得。
2009年8月より聖隷浜松病院てんかんセンター主任医長に就任。