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言葉にならない「ことば」

園長 鈴木勝子
 「暑さ寒さも彼岸まで」の言葉通り、9月下旬から日中も随分過ごしやすくなり本格的な秋の訪れを感じます。食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、実りの秋…楽しみの多い季節がやってきました。
子ども達は7日のパワフルフェスタに向けて、今年は『恐竜』をテーマに年齢発達に合わせた運動遊びに取り組んでいます。
 運動会を前にしたこの時期、毎年思い出す出来事があります。言葉での表現が苦手なA君を年長クラスで担任した時の事です。気まぐれなA君は気分のいい時には喜んでリレーの練習にも参加しますが、気分の乗らないときは全く走ろうとしません。子ども達と相談してA君が大好きな同じチームのB子ちゃんに手をつないで一緒に走ってもらおう。ということになりました。作戦大成功でA君はB子ちゃんと喜んで走ってくれました。が、それも長くは続きませんでした。B子ちゃんの力でも、テコでも動かないA君にどう関わったらいいのか。どうしたら参加してくれるだろう。次の手は…と一人で悩んでいました。そんなある日、A君とB子ちゃんが偶然お昼寝の布団が隣同士になりました。「手つないで寝る?」と声をかけると二人とも嬉しそうに手を差し出しました。私は二人の間に入って「今日、走らなくてごめんねってB子ちゃんに謝ろうか」と言うとB子ちゃんは「大丈夫、今度また走ればいいから…」その言葉に安心したようにA君は眠りました。
 A君のタイミングでいつか走ってくれればいいという気持ちをすっかり忘れていた私は、自分よりもB子ちゃんの方がA君の言葉にならない「ことば」をしっかりとキャッチしている。と気づかされました。運動会まであと何日と焦る気持ちの中で、保育の原点である「子どもは必ず育つ」という大事なことを見失っていた自分自身に猛省し、子どもの心の声を聞ける保育者になりたい!と強く思ったことを覚えています。

 私たち大人はよく「ちゃんと口で言いなさい」と言ってしまいますが、この自分の気持ちや考えを主張する力は「自分の思いを分かってもらえた」という経験が土壌となり、「自分の気持ちは分かってもらえる。だから頑張って言葉にしてみよう」という気になれるのだと思います。人と人が対面しているとき、言葉よりも表情や口調、しぐさといった言葉以外の要素の方が相手に多くの情報を与えている。という話を聞いたことがあります。まさに「目は口程に物を言う」ということです。コミュニケーションには言葉以外にも多くの伝え方があります。子ども達は言葉にできなくても“目に涙をいっぱいためて”“口をとがらせて”“身体を固くこわばらせて”、周りに思いを示し、何かを発信しています。でも上手く言葉にはできないこともあります。そんな時は「○○だったんだね」と代弁し言葉に置き換えてあげ、「わかったよ」とその思いを受け止めてあげたいものです。その繰り返しが大人への信頼感やのちに自分の気持ちや思いを言葉を使って主張する力に繋がるのだと思います。
 「子どもは必ず育つ」「子どもの心の声を聞こう!」大変な子育てですが、大人が少し心に余裕を持つことで子どもは違ってくるのではないでしょうか。