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ホーム > 腎臓内科のブログ  >  2013年5月

2013年5月

このページの目次


世界禁煙Day

05月31日は世界禁煙Dayです。

日本たばこ産業株式会社の調査によると、平成24年の時点で、30歳代ならびに40歳代の男性に限れば、約40%の方がタバコを吸っています。

 タバコが発癌あるいは循環器疾患発症のリスクになることは議論の余地がありません。現在では禁煙のための薬物療法も認められています。多くの喫煙者がタバコを止めることを願って已みません。



http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/kin-en/13.html

たばこが健康に悪影響を与えることは明らかであり、禁煙はがん、循環器病等の生活習慣病を予防する上で重要である。「健康日本21」やがん対策基本計画の目標でもある「未成年者の喫煙をなくす」ためには、喫煙による健康影響を認識させることが重要である。また、「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」に基づく第2回締約国会議において、「たばこの煙にさらされることからの保護に関するガイドライン」が採択され、我が国においても、平成22年2月に、基本的な方向性として、公共の場は原則として全面禁煙であるべき等を記した通知を発出し、平成24年度においては、受動喫煙防止対策の徹底について通知を発出したところである。今年度は、喫煙及び受動喫煙による健康影響等についての周知を目的として、「たばこによる健康影響を正しく理解しよう」を禁煙週間のテーマとし、禁煙及び受動喫煙防止の普及啓発を積極的に行うものである。



2013.05.31

雇入時の健康診断を終えて

 労働安全衛生規則第43条では、労働者を雇い入れた際に、健康診断を行うことが義務づけられています。そして異常所見があると診断された方については、その後の働き方について、産業医が意見を述べなければいけません。前述のように私が本院の産業医を務めていますので、私が健診結果を見て、判断しています。

 本院においても、2013年度、新に雇い入れた29名の新入職者に対して健康診断を実施しました。新入職者の多くは20歳代前半の方です。

 そのような若い方々のなかに、高血圧、高脂血症、耐糖能障害、脂肪肝等、所謂「生活習慣病」といわれる病態を呈している方が複数名いました。これらの生活習慣病は、通常中年期以降の方にみられる場合がほとんどです。

 生活習慣の乱れが若年者にも及んでいるということでしょうか。

 後日、異常を認めた方を面接し、個々の事情をうかがって、今後の指導を行いました。



2013.05.30

入梅

東海地方は、例年に比べて11日早い05月28日に入梅したようです。


樹も草もしずかに梅雨はじまりぬ (日野草城)


2013.05.29

第12次労働災害防止計画

労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第6条の規定により、厚生労働大臣は5年ごとに「労働災害防止計画」を策定しています。

 此の度、「第11次労働災害防止計画」が2013年3月末をもって終了し、2013年04月から向こう5年間を対象とした「第12次労働災害防止計画」が、平成25年02月25日付け厚生労働省発基安第1号により、厚生労働事務次官から通達されました。第12次労働災害防止計画は、今後5年間にわたる労働災害防止対策を進めるために、中長期的な視点から、国が重点的に取り組むべき対策を示したものです。

 労働災害は長期的には減少していますが、第三次産業では増加しています。(特に社会福祉施設では過去10年で2倍以上)。そこで第12次労働災害防止計画では第三次産業を重点業種に挙げ、対策が計画されています。


第12次労働災害計画(PDF:445KB)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002v7ud-att/2r9852000002v7vu.pdf#search='%E7%AC%AC12%E6%AC%A1%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%81%BD%E5%AE%B3%E9%98%B2%E6%AD%A2%E8%A8%88%E7%94%BB'



労働安全衛生法第6条(労働災害防止計画の策定) :
厚生労働大臣は、労働政策審議会の意見をきいて、労働災害の防止のための主要な対策に関する事項その他労働災害の防止に関し重要な事項を定めた計画(以下「労働災害防止計画」という。)を策定しなければならない。



2013.05.29

人は石垣、人は城

 数年前、株式会社は誰のものか(株主のものか、あるいは従業員のものか)、言われたことがありました。最近では従業員を使い捨てにする、所謂「ブラック企業」が話題になっています。

 株式会社は株主のものでしょう。法律でそのように決まっています。しかし株主の利益を最大にするためには、そこで働く人たちを大切にすること、そして快適な職場環境を形成することが重要だと思います。従って株主の利益と従業員の利益とは相反しません。また従業員を使い捨てにする「ブラック企業」が、企業として発展することは到底思えません。

 人は石垣、人は城なのです。



2013.05.28

産業医 (4)

 ここで「労働衛生コンサルタント」についても言及しておきます。

労働衛生コンサルタントとは、労働安全衛生法第81条第2項に以下のように定義されています。

「労働衛生コンサルタントは、労働衛生コンサルタントの名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、労働者の衛生の水準の向上を図るため、事業場の衛生についての診断及びこれに基づく指導を行なうことを業とする。 」

いわば労働安全衛生分野における専門家と言っても差し支えないと思います。

 厚生労働大臣が行う試験(筆記試験及び口述試験)に合格した者がこの名称を用いて業務ができます。

 産業医として業務を行うために、或る一定の資格を取得する必要があります。医師が労働衛生コンサルタント(保健衛生)の資格を取得した場合、産業医としての業務を行うことができます。



2013.05.27

産業医 (3)

 今まで2回にわたり、労働安全衛生における産業医の重要性について述べて来ました。しかし、そもそも産業医とはどのようなものなのか、よく知らない方もいらっしゃるかも知れません。

 常時50人以上の労働者を使用する事業所では産業医を必ず選任しなければいけないと決まっています。従って中規模以上の事業所であれば、必ず産業医が選任されている筈です。ちなみに私が勤務する病院は、従業員数約250名ですので、私が産業医を務めています。


 産業医の業務内容を列記してみます。

●健康診断および面接指導等の実施、その結果に基づく処置
●作業環境の維持管理
●作業の管理
●その他労働者の健康管理
●健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための処置
●衛生教育
●労働者の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置



2013.05.26

産業医 (2)

 労働安全衛生法第13条に、「事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。」と定められています。

 前回書いた大阪市中央区の校正印刷会社が家宅捜索されたのは、この労働安全衛生法第13条違反を疑われたからでした。

 更に労働安全衛生法に、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる、と定められています。そして事業者が産業医から勧告を受けた場合、その勧告を尊重しなければならないとも定められています。

 つまり産業医とは、労働者の健康維持のために重要な役割を担っているということです。

 労働安全衛生規則第15条に「産業医は、少なくとも毎月一回作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。」と定められています。もし家宅捜索を受けた大阪市中央区の校正印刷会社が産業医を置いていたならば、産業医がこのような環境で従業員を働かせることをただちに中止させたでしょうから、結果として胆管癌が多発する悲劇は避けられたかも知れません。



2013.05.25

産業医 (1)

 印刷会社に勤務していた元従業員らが相次いで胆管癌を発症した問題は、記憶に新しいと思います。

 大阪市中央区の校正印刷会社が、換気の悪い地下室で胆管癌発症の原因とされる化学物質を含んだ洗滌液での洗滌作業を行っており、同社に勤務していた社員が相次いで胆管癌を発症したというものです。

 更に同社は平成03年から同18年にかけて、本来労働安全衛生法で定められている産業医を置いていなかったそうです。そのため厚生労働省大阪労働局は2013年04月02日に従業員の健康被害の防止措置を怠ったとして、労働安全衛生法違反の疑いで、同社の本社など複数の関係先を一斉に家宅捜索しました。



2013.05.24

高脂血症の治療 (2)

 生活習慣の改善を行っても、血清脂質が目標値に届かない場合、薬物療法が考慮されます。

 LDLコレステロールが高い場合、治療薬として、スタチンが勧められます。

 リスクの高いLDLコレステロール血症においては、スタチンに加えて、エジチミブの服用が考慮されます。更にエジミチブ服用にかわってイコサペント酸エチル (EPA) の投与も考慮されます。

 低HDLコレステロールをともなう高中性脂肪血症に対しては、リスクの重みに応じてフィブラート系薬剤やニコチン酸誘導体などの薬物療法も考慮されます。

 通常、このような薬剤は長期間にわたっての服薬が必要となります。各々の薬剤について、簡単な説明を下記に記載しました。


スタチン (Statin):HMG-CoA還元酵素(hydroxymethylglutaryl-CoA reductase)阻害薬の総称である。HMG-CoA還元酵素の働きを阻害することによって、血液中のコレステロール値を低下させる薬物。現在製品化されているものに、ロバスタチン、アトルバスタチン、プラバスタチン等がある。

エジチミブ:小腸においてコレステロール吸収を阻害する作用があり、それによって血清コレステロール値を低下させる。

イコサペント酸エチル (EPA):イワシやサバなど青魚に含まれる不飽和脂肪酸と同じ成分。抗血小板作用と脂質代謝改善作用をあわせもち、実際の大規模臨床試験でも心筋梗塞など心臓病を防ぐ効果が認められている。このため、高脂血症(高中性脂肪血症)を合併する閉塞性動脈硬化症などに用いられる。

フィブラート系薬剤:核内受容体のPPAR-α(Peroxisome proliferator-activated receptor alpha)に作用して、脂質合成に関わる蛋白の合成を制御する。またリポタンパク質リパーゼ(Lipoprotein lipase)の発現を増やし、血管内皮でのVLDLやカイロミクロンの異化を促進させる。薬剤としてベザフィブラートやフェノフィブラートがある。

ニコチン酸誘導体:スタチンに併用する例が最近では多い。他の薬では下がらないLipoprotein(a)を若干下げる。ニコチン酸とニコチン酸アミドの総称をナイアシン(ビタミB3)という。薬剤としてニセリトロールなどがある。



2013.05.23

高脂血症の治療 (1)

 高脂血症の治療は、まず生活習慣を改善させることです。

 LDLコレステロールを低下させるためには、飽和脂肪酸の摂取を減らし、不飽和脂肪酸の摂取を増やす。またコレステロールの摂取を制限し、食物繊維の摂取を増やす。

 中性脂肪を低下させるためには、炭水化物、アルコールを制限し、n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取を増やす。

 HDLコレステロールを上昇させるためには、中等強度の有酸素運動を継続するとともに、体重を減らし、トランス脂肪酸の摂取を避ける。


 食餌療法に関しては、自己流で行うよりも、病院を受診して管理栄養士の指導を受けた方が良いと思います。


2013.05.22

慢性腎臓病を有する患者様の血清コレステロールの目標値は?

 慢性腎臓病を有する方は、心血管合併症のリスクが高くなることは既に述べました。また慢性腎臓病を来す原因疾患として、動脈硬化が原因である「腎硬化症」が三大原因のひとつであることも既に述べました。

 心血管疾患を予防するためにも、また腎硬化症を予防するためにも、血清コレステロール値を下げることは重要です。しかしどのくらい低下させれば良いのでしょうか。昨年、日本動脈硬化学会より、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版」が発表されました。そのなかに血清脂質の管理目標値が明確に示されています。

 健診あるいは病院で血清コレステロール値を測定し、評価する場合、「血清総コレステロール値」のみで評価することは不適切です。

 現在は、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値、中性脂肪値ならびにnon HDLコレステロール値(総コレステロール値からHDLコレステロール値を減じたもの)で評価します。

 なんらかの虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞等)の既往がある場合、慢性腎臓病合併の有無を問わず、それぞれLDLコレステロール値100mg/dl未満、HDLコレステロール値40mg/dl以上、中性脂肪値150mg/dl未満、そしてnon HDLコレステロール値130mg/dl未満が、目標値です。

 虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞等)の既往がない場合、慢性腎臓病を有する方は、それぞれLDLコレステロール値120mg/dl未満、HDLコレステロール値40mg/dl以上、中性脂肪値150mg/dl未満、そしてnon HDLコレステロール値150mg/dl未満が、目標値です。

 採血を行う場合は、空腹時静脈採血が原則です。10~12時間以上の絶食を「空腹時」とします。ただし水やお茶など、カロリーのない水分の摂取は可能です。


2013.05.21

紫陽花

生花店に紫陽花の鉢が並んでいました。



あぢさゐのかくまで藍を深めしよ (安住 敦)


2013.05.20

地方の消滅 (2)

 平成21年01月に伊豆市教育振興審議会によって「伊豆市小中学校の適正規模と適正配置に関する答申書」が出されました。2013年の春に行われた小学校の統合も、2016年に予定されている中学校の統廃合も、この「答申書」に基づいて行われたものです。

 「答申書」は、将来の児童・生徒数の激減を推計しています。平成20年度(2008年度)には、伊豆市内の小学校児童数は1721人、中学校生徒数は1071人でした。しかし平成26年度(2014年度)には、小学校児童数は1270人、中学校生徒数は822人になると推計されています。つまり平成20年度(2008年度)に比べて、小学校児童は26%減少し、中学校生徒は23%減少するということです。

更にその6年後の平成32年度(2020年度)になると、中学校生徒数は575人となると推計されています。これは平成20年度(2008年度)のおよそ半数になるということを示しています。

 たった12年間で中学生が約半数となる……。

 このままでゆけば、近い将来、伊豆市は消滅してしまうことでしょう。



2013.05.20

地方の消滅 (1)

平成16年04月に4町(修善寺町、中伊豆町、天城湯ヶ島町、土肥町)が合併して静岡県伊豆市ができました。

以前、旧天城湯ヶ島地区には、3校の小学校がありました。しかし2013年04月を以って3校の小学校は1校に統合されました。

旧湯ヶ島小学校は小説家である井上靖の母校です。また旧月ヶ瀬小学校は歌人・教育者である大岡博(小説家・詩人として活躍している大岡信の父親)が校歌を作詞された学校です。

以 前、旧湯ヶ島小学校や旧月ヶ瀬小学校に通学していた小学生は、スクールバスに乗って統合された新しい小学校に通っています。統合されたことで児童数も増え、良いことも多いことは間違いないでしょう。教育効果等を勘案すれは、小学校の統廃合は致し方ないと思われます。

2016年には、現在伊豆市内にある4校の中学校が統廃合され、2校に再編されます。



2013.05.19

地域医療の危機!? (3)

 平成16年04月に4町(修善寺町、中伊豆町、天城湯ヶ島町、土肥町)が合併して静岡県伊豆市ができました。平成25年04月現在、伊豆市の高齢化率は33.07%にのぼっています。人口の3分の1が65歳以上ということです。

 前回、伊豆市在住の伯父について書きました。伯父の住む旧天城湯ヶ島地区の高齢化率は33.50%です。高齢者はADLが低下している場合が多く、たとえ体調が悪くなっても遠方の医療機関を受診することが困難な場合が少なくありません。

以前は存在した「かかりつけ医」は消滅し、中核医療機関である伊豆赤十字病院も医師不足が深刻で機能を十分に発揮できないとすると、この地区に住む住人の健康を守るにはどのようにしたら良いのでしょうか。



高齢化率:人口に占める65歳以上人口の割合

ADL: 英語でActivities of Daily Livingのこと。日常生活動作と訳される場合が多い。食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴など生活を営む上で不可欠な基本的行動を指す。



2013.05.18

地域医療の危機!? (2)

 私の伯父は静岡県伊豆市在住です。20年以上前に心臓の手術(大動脈弁置換術ならびに僧帽弁置換術)を受けているため、現在でも定期的な通院が欠かせません。病院受診の際には片道1時間以上かけて、静岡県駿東郡長泉町の病院まで行っています。体調の良い時には畑仕事もする伯父ですが、既に80歳を越えているため、待ち時間を含めて、通院の負担は大きなものと思われます。

 私が子供の頃、伯父の自宅の近所に、所謂「かかりつけ医」と呼ばれる開業医院がありました。体調の悪い時にはその「かかりつけ医」を受診していたのです。しかし現在、その開業医院は廃業してしまっています。御子息も医師となっていますが、別の場所で開業されており、親が開業していた場所に戻ることはないようです。

 今は元気な伯父ですが、これから先、ADLが更に低下して遠方の病院への通院がままならなくなった時、どのように対処すれは良いか、身内としては大きな問題です。


ADL: 英語でActivities of Daily Livingのこと。日常生活動作と訳される場合が多い。食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴など生活を営む上で不可欠な基本的行動を指す。


2013.05.17

地域医療の危機!? (1)

 2013年03月28日に、静岡県伊豆市の市長さんからお手紙をいただきました。伊豆市の中核病院である「伊豆赤十字病院」についてです。

 私事ではありますが、同院は私の妹が生まれた病院でもあり、私の両親の最期を看取っていただいた病院でもあります。伊豆市は世帯数13397世帯、人口34228人です(2012年04月01日現在)。同院はその伊豆市民の健康を支える中核医療機関と言っても差し支えありません。

 しかし現在、伊豆赤十字病院の常勤医は3名(整形外科医1名、小児科医2名)にまでに減少し、病床数94床の病院を維持することが困難になっているそうです。

 現在の市長さんは私の中学校ならびに高等学校の2級上の先輩です。高等学校の同窓会名簿(最新版が最近発行されました)を見て、同高校卒で医師になった同窓生に窮状を訴え、応援してくれる医師を募集してきたようです。

 私が現在勤務している病院は「伊豆赤十字病院」と同様の規模の病院で、常勤医は17名います。しかし医師の数、看護師の数、ともに十分ではありません。

 地域によって、あるいは診療科によって、十分な医師が確保されている場合(あるいは過剰ですらある場合)もあるようです。医師の偏在の問題を解決することが、重要だと思います。



2013.05.16

腎臓と塩と高血圧の密接な関係 (2)

 慢性腎臓病を有する方は、腎臓から塩を体外に排泄する働きが弱くなっており、健常人に比べて血圧が上がりやすくなっています。腎臓病を有する患者様にみられる高血圧を「腎性高血圧症」と呼び、「本態性高血圧症」に次いで2番目に多くの患者様がいらっしゃいます。慢性腎臓病患者様が多くの食塩を摂取すると、更に血圧が上昇します。そしてまた血圧が上昇することで腎臓に負担がかかり、更に腎臓が障害されるという悪循環に陥ることになります。

 21世紀を生きる我々にとっても、塩は最大の御馳走です。ラーメン、ウドンあるいはパスタなどには大量の塩が練り込められています。ハンバーガーやポテトチップスなどのジャンクフード、あるいは洋菓子/和菓子などにも塩が使われています。コンビニで売られているお弁当やお惣菜にも大量の塩が使われています。塩辛くないと、ひとは旨いと思わないのです。最近、糖質ゼロあるいはカロリーゼロを謳った飲料や食品が販売されています。しかし塩(ナトリウム)ゼロの飲料/食品はありません。ペットボトルのお茶、あるいはミネラルウォーターにさえも塩(ナトリウム)が入っています。スーパーやコンビニで買い物をされる機会に確認してみて下さい。

 人類が誕生した600~700万年前、アフリカ大陸のサバンナ地帯では貴重だった塩も、現在、望めはいくらでも摂ることが出来る環境にあります。塩を好む嗜好と一旦取り込んだ塩を体内に保つ機構とにより、現代人は食塩過剰摂取とそれによる高血圧に悩まされることになりました。最近、アメリカ心臓協会(American Heart Association)が発刊する雑誌に、「米国人が摂取する食塩量を平均40%減らすならば、今後10年間に850000人の命が救われるだろう(An immediate 40% reduction in salt intake could also increase the amount of lives saved this decade to 850,000.)」と記載されていました。更に「現在米国人が1日に摂取しているナトリウム量3.6グラムを1.5グラムに減らせば、今後10年間で120万人の命が助かるだろうと述べられています(Americans consume over 3,600 milligrams of sodium daily, and if this were to be reduced to 1,500, as many as 1.2 million premature deaths could be averted over the course of a decade.)。米国人の1日食塩摂取量は11グラムほどで日本人よりも若干少なめです(ナトリウム量と食塩量とはイコールではありません)。それでも更に食塩摂取量を減らすべきであると述べているのです。米国人と日本人とは遺伝的背景も異なるので同様に論じることは危険ですが、日本人でも米国人と同じように、1日食塩摂取量を40~60%減らすならば、高血圧に関連した死亡を大幅に減らすことができるのではないでしょうか。厚生労働省は、1日食塩摂取量を6グラムにするように勧めています。現在の日本人の1日食塩摂取量から考えると、1日食塩摂取量6グラムは、おおよそ50%前後の減量となります。


2013.05.15

腎臓と塩と高血圧の密接な関係 (1)

 腎機能低下を防ぐためには、血圧を正常に保つことが重要であることは既に述べました。そして血圧を正常に保つためにご自分でできる最も有効な方法は食塩摂取量を減らすことであるとも既に述べました。今回は腎臓と塩と高血圧とが密接に関係していることについて述べます。

 太古の昔、我々の祖先は大海のなかで生活していました。海から陸へ生活の場を移すにあたり、海と同様の環境を体内に保つ必要がありました。これを「体内の恆常性維持」と呼び、腎臓がその役割を担っています。体液中の各種ミネラル、なかんずくナトリウムをいかに体内に取り込み、取り込んだナトリウムをいかに体外に逃がさないようにするかが、生命を維持するために重要なことでした。

 600~700万年前に人類が生まれたアフリカ大陸のサバンナ地帯は、食塩(ナトリウム)を十分に摂ることができない環境にあり、人類の祖先も食塩摂取には難渋したものと思われます。彼/彼女らにとって塩を摂取することは自身の生命を維持する上で非常に重要なことでした。また一旦摂取した塩を体外に逃がさない機構を持った者が生存に有利であり、生存競争に勝ち抜いて来たものと思われます。そもそも今を生きる人間は少ない食塩摂取で生きていけるように設計されているのです。

 多くの塩を摂ると、同じ量の塩を尿とともに体外に排泄しなければなりません。そこで生体は、血圧を高くして腎臓に圧力をかけ、腎臓から塩を体外に多く排泄しようとします。食塩摂取を少なくすれば、腎臓から排泄する塩も少なくてすみますから、腎臓に大きな圧力をかける必要はなく、血圧も上がらずにすみます。

高血圧研究で著名な家森幸男博士(京都大学名誉教授)によれば、アフリカ大陸の東部、タンザニアの奥地に住むマサイ族は、食塩をほとんど摂取しないために高血圧がほとんどないと述べています(しかし現在は調味料としての食塩が普及し、マサイ族にも高血圧が増えてきているようです)。また一方で、チベット高原に住む人たちは塩茶やバター茶など、地元でとれる岩塩をお茶に入れて頻回に飲む習慣があり、そのため1日18グラムもの食塩を摂取しているそうです。それにより高血圧の頻度が非常に高く、50歳代で約4割(世界平均の2倍)の方が高血圧だそうです。家森博士はこれらの研究結果を踏まえ、食塩摂取制限こそが長寿を保つうえで重要であり、「塩は毒だと考えるべきだ」とも述べています。



家森幸男 略歴(京都大学名誉教授・医学博士)
 1937年京都生まれ。京都大学医学部医学科を経て同大学大学院医学研究科病理系専攻博士課程修了。京都大学医学部助教授、島根医科大学医学部教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を経て現在は京都大学名誉教授である。1998年に紫綬褒章を受章された。



2013.05.14

第56回日本腎臓学会学術総会に参加しました

 2013年05月10日から12日の3日間、東京国際フォーラムを会場として、第56回日本腎臓学会学術総会が開催されました。私は05月12日のみ参加しました。

 最先端の腎臓病研究/診療どうなっているのかを知るため、毎年参加しています。

 東京は晴天で、汗ばむほどでした。


海へただ薄暑の地図を誦んずる (加藤楸邨)



2013.05.13

夏燕

自宅の近くで燕が空を舞っていました。


むらさきのこゑを山辺に夏燕 (飯田蛇笏)



2013.05.11

年収100万円時代を生き抜く経済学

『年収300万円時代を生き抜く経済学』(森永卓郎著)が出版されたのが2003年02月でした。年収300万円でも割り切って、自分にとって本当に「幸福」な人生を目指そうという内容です。メディアでも話題になりました。

 『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(イケダヤハト著)が2012年11月に出版されました。今や年収と幸せは比例しない。年収150万円でも幸せに生きることが可能になってきているという内容です。

 そして此の度、ユニクロのブランドでアパレル販売を手がけるファーストリテーリング社社長である柳井正は、自社を世界同一賃金体系とすると発表し、「社員が年収100万円でも仕方がない」と述べたそうです(朝日新聞デジタル版 2013.04.23)。

10年前には年収300万円の時代でしたが、今や日本は年収100万円の時代に入ろうとしているようです。



2013.05.13

子宮頸癌ワクチンについて (3)

 前回、子宮頸癌ワクチンの副作用を懸念される方々について述べました。副作用への懸念は、本邦のみならず、米国でも同様のようです。

 米国のメイヨー・クリニック小児センターのM.Jocobson博士らは、「2008年から2010年にかけて、10歳代の女性に対する子宮頸癌ワクチン接種率は上昇しているものの、ワクチン接種は不要と考える親では安全性や副作用に対する懸念を示す回答が増えていた」とする調査結果をPediatrics誌 (131: 645-651, 2013)に発表しています。

 子宮頸癌ワクチンを受けていない児の親に、その理由を尋ねたところ、(1) ワクチン接種を勧められなかった。(2) 必要ない。(3) 知識がない。(4) わからない。(5) 自分の子供は性的に活発でない。(6) 自分の子供の年齢にこのワクチンは不適切。(7) 安全性や副作用に対する懸念。などを挙げました。

 子宮頸癌ワクチンを受けさせないと回答した親のうち、子宮頸癌ワクチンの安全性に懸念を抱く者の割合は、2008年の4.5%から2010年には16.4%に増加していたそうです。

M.Jocobson博士は、論文のなかで、子宮頸癌ワクチンの重要性を強調し、特に10歳代前半に接種することを強く勧めています。



2013.05.12

子宮頸癌ワクチンについて (2)

 子宮頸癌ワクチンについて、その効能は認めるものの、副反応を危惧されている方もいらっしゃることと思います。2011年に本ワクチン接種後に複合性局所疼痛症候群(CRPS: Complex Regional Pain Syndrome)と診断された事例です。メディアでも報道されました。経過は下記の通りです。


 「14歳の女子中学生2011年09月中旬に本ワクチン(商品名サーバリックス)1回目を接種、11月中旬に2回目を左腕に接種したところ、2回目接種後、左腕の腫脹、疼痛、しびれがあり、その他、左肩、左足、右腕、右足にも疼痛が間歇的に生じた。夜間には肩から肩甲骨、指先まで痛みが広がり、疼痛のために歩行困難となった。」


 複合性局所疼痛症候群は、ワクチンの成分によっておこるものではなく、外傷、骨折、注射等の刺激がきっかけになって発症すると考えられています。

 現時点で2種類の子宮頸癌ワクチンの副反応発現状況については、サーバリックスは全体で0.014%(うち重篤0.0013%)、ガーダシルは全体で0.012%(うち重篤0.0009%)です。

 厚生労働省も、「注射針を刺すことが影響している可能性がある。ワクチン接種を中止するほどの重大な懸念はない」との見解を表明しています。

 日本産婦人科医会は、これらの報道によって誤解と混乱とが生じることを懸念し、同会会長の名で声明を発表しました(2013年04月09日)。


http://www.jaog.or.jp/news/img/cancer_20130409.pdf


2013.05.11

子宮頸癌ワクチンについて (1)

2013年04月03日に、公益財団法人日本対がん協会、公益財団法人日本産婦人科学会ならびに公益財団法人小児科学会等から、子宮頸癌ワクチンについての適正接種に関する声明が発表になりました(「子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)適正接種の促進に関する考え方」)。

 本邦に於いて、毎年約15000人の女性が新たに子宮頸癌に罹患し、およそ3500人が命を落としています。多くの若い女性が同ワクチンを接種することを願ってやみません。


http://www.jsog.or.jp/news/pdf/20130404_kyodo_msg.pdf

以下「子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)適正接種の促進に関する考え方」の全文です。


日本において子宮頸がんは女性特有のがんとしては、乳がんに次いで罹患率が高く、特に20~30 代のがんでは第1 位となっています。毎年約15,000 人もの女性が新たに子宮頸がんにかかり、約3,500 人が亡くなっています。特に若い女性においては罹患率が増加しています。子宮頸がんは生命を脅かすのはもちろんですが、治療によって治癒した場合でも子宮喪失等により、日 本の未来の命をはぐくむことができなくなるという社会的な影響をもたらします。このように女性にとってまた社会にとって大きな脅威である子宮頸がんの原因がHPV 感染です。HPV 感染による子宮頸がんは、定期的な検診とワクチン接種で予防することができます。

子宮頸がん予防ワクチンが広く接種されることにより、将来、わが国における子宮頸がんの発生を約70%減少させることが期待できます。これは、出産年齢の高齢化や少子化が 進む現在の日本社会において、きわめて重要なことだと考えます。

地域格差や経済的格差なく、希望するすべての人が定期接種でこれらのワクチン接種が受けられる制度が実現することで、ワクチンで防ぐことができる病気(VPD : Vaccine Preventable Diseases)から一人でも多くの人が救われることは、予防接種政策が他国に比べ遅れをとってきた日本において、さらに重要になります。日本では今までワクチン接種に 関する正しい知識の普及が遅れていたために、ワクチンによるリスクと恩恵の両方を正しく評価できず、国民の皆さんがワクチン接種による恩恵を十分受けることができずにいま した。そのため、罹らずにすむ疾患でご本人やご家族が大変な負担を強いられたり、落とさずに済む命を失ったりするなど、非常に残念な状況が長く続いてきました。

平成25 年度4 月以降施行される改正予防接種法により、わが国においても、子宮頸がん予防、ヒブ、小児用肺炎球菌の3 ワクチンが定期接種として広く実施されることになります。私たちはこれを歓迎し、これら3 疾患のさらなる啓発と、ワクチンの適正接種による予防が推進されることを望みます。

子宮頸がん予防ワクチンは、世界120 か国以上で承認され、その有効性・安全性が広く認められたワクチンです。2007 年に世界で最初に公費助成プログラムを導入したオーストラリアをはじめ、先進国を中心に、接種費用を公費で助成する国は2012 年9 月現在で40 か国にのぼっています。WHO(世界保健機構)をはじめとする世界の主要な国際機関や政府機関は、子宮頸がん予防ワクチンに関して提供されているあらゆる安全性情報を検証 した上で、引き続き接種を推奨しています。

子宮頸がん予防ワクチンは、定期接種化に先立ってワクチン接種緊急促進事業として公費助成の対象となりました。この事業の一環として、専門家で構成される「子宮頸がん等ワ クチン予防接種後副反応検討会」が年数回開催され、医療関係者や企業から報告されたワクチン接種後の有害な事象について、その評価や安全対策が検討されてきました。また製 造販売メーカーも日々医療関係者や一般消費者からの情報や、世界各国から収集した情報を集積し、それを個別の症例ごとに評価し、評価結果を自社データベースに集積するとと もに、薬事法に基づき規制当局への報告を行い、評価・検討した結果に基づいて、適正使用の情報提供に努めています。

子宮頸がん予防ワクチンを導入した国では、すでに子宮頸部の前がん病変の減少が認められています。子宮頸がんは女性の健やかな人生に大きな影響を与える病気です。日本国民 が子宮頸がんとその予防ワクチンについての正しい知識を持ち、日本の女性が定期的な子宮頸がん検診とワクチンの接種で自身の命と子宮をがんから守るための行動をとっていた だける環境が整えられ、今後さらに適正な定期接種が行われていくことを期待します。



2013.05.10

糖尿病を有する血液透析患者様の血糖コントロールの指標ならびに目標値が変更されました

 現在まで糖尿病を有する透析患者様の血糖コントロールの指標は、HbA1c (NGSP) ならびに随時血糖値(透析前血糖値)でした。日本糖尿病学会のガイドラインに従い、HbA1c (NGSP) 6.9%未満をコントロール良、6.2%未満をコントロール優と判断し、そのように患者様に指導してきました。

 しかし此の度、日本透析医学会雑誌第46巻03号2013年に、「血液透析患者の糖尿病治療ガイド2012」が発表され、そのなかで糖尿病を有する透析患者の血糖コントロールの指標ならびに目標値の変更が謳われています。

 本院透析室においても、「血液透析患者の糖尿病治療ガイド2012」に従い、本年05月以降、透析患者様の血糖コントロールの指標は、HbA1c (NGSP)ではなく、グリコアルブミン(glycated albumin: GA)値を用いることとします。随時血糖値(透析前血糖値)は従来どおり測定します。


1. 透析開始前の随時血糖値(透析前血糖値)およびグリコアルブミン(glycated albumin: GA)値を血糖コントロール指標として推奨する。
2. ヘモグロビンA1c(HbA1c)値は貧血や赤血球造血刺激因子製剤の影響により低下し、透析患者の血糖コントロール状態を正しく反映しないため参考程度に用いる。
3. 随時血糖値(透析前血糖値:食後約2時間血糖値)180~200mg/dL、GA値20.0%未満、また、心血管イベントの既往歴を有し、低血糖傾向のある対象者にはGA値24.0%未満を血糖コントロールの暫定的目標値として提案する。しかし確定値の設定には今後の研究成果を待つ必要がある。
4. 低血糖のリスクを回避しつつ、生命予後の向上を目指して随時血糖値(透析前血糖値)、GA値などを沿い総合的に判断しながら、血糖コントロールをする必要がある。



2013.05.09

常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎

 本邦に於いて慢性腎不全に至る三大原因は、糖尿病、慢性糸球体腎炎そして腎硬化症であることは既に述べました。今回、慢性腎不全に至る遺伝性疾患の代表である「常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎」について述べます。

 常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎(ADPKD: Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease)は遺伝子変異により両側腎臓に多数の嚢胞が進行性に発生・増大し、腎臓以外にも種々の臓器にも障害が生じる最も頻度が高い遺伝性腎疾患です。

 加齢とともに嚢胞が増加して進行性に腎機能が低下し、70歳までに約半数の方が末期腎不全に至り、透析療法への導入を余儀なくされます。

本疾患の患者様が特に気を付けなければいけないことは、脳動脈瘤の合併が多いことです。脳動脈瘤の頻度は、一般人口では約1%ですが、常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎の患者様では、脳動脈瘤の家族歴がある場合で約16%、家族歴がない場合でも約6%と、高頻度です。

 常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎の診断基準を下記に記載しました。


ADPKD診断基準
(厚生労働省進行性腎障害調査研究班「常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎診療ガイドライン第2版」による)

01. 家族内発生が確認されている場合
1) 超音波断層像で両腎に嚢胞が各々3個以上確認されているもの
2) CT、MRIでは、両腎に嚢胞が各々5個以上確認されているもの

02. 家族内発生が確認されていない場合
1) 15歳以下ではCT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々3個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合
2) 16歳以上ではCT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々5個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合


除外すべき疾患
多発性単純性腎嚢胞
腎尿細管性アシドーシス
多嚢胞腎(多嚢胞性異形成腎)
多房性腎嚢胞
髄質嚢胞性疾患(若年性ネフロン癆)
多嚢胞化萎縮腎(後天性嚢胞性腎疾患)
常染色体劣性遺伝性多発性嚢胞腎


2013.05.08

新人来る

 今年も様々な職種の職員29名が本院に新入職してくれました。04月22日に新人歡迎会が開かれました。

 本院透析室にも1名、新人の臨床工学士が配属され、先月から仕事を始めています。

 社会人としての第一歩を本院で始める方々は、戸惑うことも少なくないでしょうし、また実社会の厳しさも少なからず感じることでしょう。

新人の皆さんには頑張っていただきたいと思います。




太き道一筋夏の園に在り (高濱虚子)


2013.05.07

立夏

 本日05月05日は暦の上で立夏となるそうです。

 20年以上前、愛媛県南部地方(南予地方)で暮らしていました。そこでは5月の連休が終わるといきなり夏になります。5月上旬からポロシャツだけで過ごしていました。現在住んでいるところは違います。まだダウンベストを着ています。





さざなみの絹吹くごとく夏来る (山口青邨)




2013.05.05

透析療法とは?

 前回は慢性腎臓病について述べ、透析療法についても言及しました。今回は透析療法を含めた血液浄化療法について述べます。

 現在、本邦で透析療法を受けている患者様は304592人いらっしゃいます(2011年12月末日現在)。2011年の1年間で38893名の方が新たに透析を開始され、また30831名の方が残念ながら亡くなられました。1年間で透析患者様が約8000名増加したことになります。これらの数字から、透析療法が決して特別な治療法でないことはおわかりになると思います。

腎機能が低下する原因は数多くあります。しかしそのなかでの三大原因は、糖尿病、慢性糸球体腎炎、そして腎硬化症です。2011年に透析療法を開始された方のうち糖尿病が原因の腎不全は44.2%、慢性糸球体腎炎が原因の腎不全は20.4%、腎硬化症が原因の腎不全は11.7%と、圧倒的に糖尿病が原因で腎不全に陥る患者様が多いことがわかります。ちなみに慢性糸球体腎炎とは腎臓自体の病気で、以前は腎不全に至る原疾患のうちで最多なものでした。また腎硬化症とは動脈硬化を原因とするものです。高齢化比率が増加してゆくなかで、動脈硬化を基礎疾患とする腎不全も増加傾向にあります。

 いずれにしろ患者様自身の腎臓だけでは生命を維持できなくなった場合、透析療法を考慮しなくてはなりません。透析療法には「血液透析」と「腹膜透析」と、ふたつの療法があります。血液透析の場合は、あらかじめ血管の手術を受けていただき、「内シャント」と呼ばれる血管吻合を前腕に作成していただきます。実際に透析を行う際には、内シャントに2本の針を穿刺し、一方の針から血液をとって透析器に流し、浄化された血液をもう一方の針から体内に戻します。一方腹膜透析の場合は、腹壁にチューブを装着し、腹腔内へ透析液を注液/排液して、透析を行います。血液透析は透析を受けるために1週間に3回来院していただく必要があり、一般には1回の血液透析で4時間かかります。その間、ベッド上での安静臥床が必要です。一方腹膜透析はご自宅で1日4回、透析液の注液/排液が必要ですが、来院は2週間に1回、あるいは1ヶ月に1回で済みます。血液透析に比べて腹膜透析は心臓・血管に負担が少なく、また足腰の弱った方には通院の負担が軽減されるため、特に高齢者にお勧めの療法です。腹膜透析には夜間のみ器械を用いて自動的に注排液を行う方法もあります(従って昼間に注排液をする必要がありません)。また血液透析と腹膜透析とを組み合わせて両者の長所を活かす「併用療法」も行われます。

 血液浄化療法は、腎不全だけではなく、潰瘍性大腸炎、慢性閉塞性動脈硬化症、家族性高コレステロール血症、膠原病などの難治性疾患に対しても行われ、効果を挙げています。

 血液透析療法ならびに腹膜透析療法に関しては、後日、稿を改めて詳述したいと考えています。



2013.05.06

健やかな腎臓を保つために重要なこと

 日本透析医学会の報告によると、現在我が国には約2346万人の慢性腎臓病患者様がいると推測されています。これは成人の6~25人に1人の方が同疾患に罹患されていることを示しています。また透析療法を受けていらっしゃる患者様は既に30万人を越えており、漸増傾向にあります。つまり「慢性腎臓病」は、まさに国民病と呼んでも差し支えない疾患なのです。しかし健康診断や人間ドックにて慢性腎臓病を指摘されても、多くの場合、自覚症状はありません。そのため専門医療機関を受診する必要がある場合でも、受診せずに済ませてしまう場合も少なくないようです。

 健康を保って天寿をまっとうするためには、腎臓の働きを健やかに保つことも重要なことです。今回は腎臓の働きを維持するため重要なことを述べます。

 まず大事なことは、血圧を正常に保つことです。日本高血圧学会では、収縮期血圧が
130mmHg未満、拡張期血圧が85mmHg未満を正常血圧と定義しています。また慢性腎臓病と診断された場合、日本腎臓学会では、収縮期血圧が130mmH以下、拡張期血圧が80mmHg以下に保つようにすべきとしています。高血圧は腎臓を障害するのみならず、心疾患や脳卒中のリスクを増すことも知られています。血圧を正常に保つために、ご自分でできる最も有効な方法は、食塩摂取量を減らすことです。1日食塩摂取量の目標は6g未満です。医療機関を受診すれば尿検査を行うことで、1日食塩摂取量を推定することができます。血圧の高い方は、ご自分の1日食塩摂取量を測定してみてはいかがでしょうか。食塩摂取制限の他、肥満の解消、適度な運動、節酒、禁煙等が血圧を正常に保つために有効です。

 次に大事なことは、糖尿病(耐糖能障害)の発症を防ぐことです。空腹時血糖が正常範囲内であったとしても、食後高血糖を来す場合があるので注意が必要です。通常の健康診断では、食後高血糖は見逃されがちです。健常人であれば、食後であっても血糖値が140mg/dlを越えることはありません。現在、透析療法に導入となる原疾患の第一が糖尿病性腎症です。糖尿病発症を防ぐために、ご自分でできる最も有効な方法は、内臓脂肪症を防ぐことです。検診で腹囲の増大や脂肪肝を指摘された場合、血糖値は正常範囲内であったとしても、食事に注意し、運動を怠らず、内蔵脂肪症/脂肪肝の解消に努めるべきです。

 最後に、最も重要なことは、検診等で再検査を勧められた場合、必ず専門医療機関を受診することです。そしてより詳しい検査を受け、必要であれば服薬等を開始することです。高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、生活習慣の改善が最優先されるべきですが、それだけでは不十分な場合が多々あります。担当医から勧められた場合には、服薬をためらうべきではありません。


2013.05.04

慢性腎臓病は何故怖いのか

 私たちの腎臓は左右にふたつ、背中に近いところにあります。ひとつの腎臓のなかには「糸球体」と呼ばれる球状に毛細血管が絡まった構造が、約100万個存在しています(腎臓はふたつありますから、合計200万個の糸球体が存在します)。この糸球体がからだの老廃物を水とともに尿として体外に排泄する役割を担っています。このはたらきを「体液の恒常性維持」と呼びます。太古の昔、我々の祖先は海の中で生活していました。進化の過程で海から陸へ生活の場を移すに当たり、腎臓という臓器を得て初めて陸の生活ができるようになったのです。しかし腎臓の働きはそれだけではなく、赤血球産生を促すホルモンを産生したり、あるいは骨を作るホルモンを産生することも行っています。「慢性腎臓病」となれば、この腎臓の働きが低下してしまうのです。

 腎臓の働きが低下してしまえば、体液の恒常性維持が十分にできなります。更に赤血球が十分に産生できなくなる(貧血になる)場合や、あるいは骨が脆くなることもあります(腎性骨症)。 「慢性腎臓病」は何故怖いか。その理由は以下の三点にあります。(1)末期腎不全に至って、人工透析が必要となる。(2)慢性腎臓病を有する方は脳卒中や心臓病などの心臓・脳血管疾患を発症する危険が高いことがわかってきた。(3)慢性腎臓病の頻度は高く、新たな国民病と呼んでもおかしくない疾患である。

 腎臓の機能が低下し、自分の腎臓では自分の命を維持できなくなった場合、人工透析療法を受けることになります。本邦において、2011年末の時点で304592人の方が透析療法を受けていらっしゃいます。毎年毎年透析を受ける患者数は増えてきています。医療経済的にも大きな問題となっています。また心臓・脳血管疾患を発症することで、生活の質が大きく毀損されたり、場合によっては寝たきりになってしまう場合もあります。このように恐ろしい「慢性腎臓病」ですが、初期の場合、自覚症状はほとんどありません。健康診断等で指摘されて初めてわかる場合がほとんどです。また自覚症状がないため、病気を指摘されても医療機関を受診しない方も少なくありません。

 「慢性腎臓病」は怖いのです。


2013.05.03

「慢性腎臓病」とは?

 最近、テレビ、新聞、あるいは健康雑誌等で、しばしば「慢性腎臓病」が取り上げられています。慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease)の英語の綴りを略してCKDと呼ぶ場合もあります。

 2002年に米国腎臓財団が初めて提唱して以来、10年余が経過し、この言葉が本邦でも普及してきています。そもそも「慢性腎臓病」とはどのような病態を指すのでしょうか。

 日本腎臓学会が定義した診断基準は下記に記載しました。職場健診等で検尿の異常を指摘された場合や、あるいは腎機能を表す「血清クレアチニン値」が上昇している場合、「慢性腎臓病」の可能性が高いと思われます。



慢性腎臓病の定義 (『日本腎臓学会編 CKD診療ガイド 2012』による)

①尿異常,画像診断,血液,病理で腎障害の存在が明らか.特に0.15 g/gCr以上の蛋白尿(30 mg/gCr以上のアルブミン尿)の存在が重要
②GFR<60 mL/分/1.73 m2
①②のいずれか,または両方が3 カ月以上持続する


2013.05.02

ブログ始めました

 ブログ始めました。腎臓疾患およびその関連疾患、ならびに私が日々感じたことを書き綴っていこうと思います。

お付き合い下さい。

最初に私の略歴を記します。


学歴・職歴

1987年03月 国立大学医学部医学科卒業
1991年03月 同大学大学院医学研究科(博士課程)修了
1991年04月 市中病院に内科医として勤務
1993年04月 大学附属病院に内科医として勤務
2001年04月 現勤務先病院に内科医として勤務
現在に至る


学位・免許・資格

医学博士
日本内科学会認定総合内科専門医
日本腎臓学会認定専門医・指導医
日本透析医学会専門医・指導医
日本循環器学会専門医
労働衛生コンサルタント(保健衛生)



暮れ際の紫紺の五月来たりけり (森 澄雄)


2013.05.01

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