グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム  > 園長コラム  > 自然にあたりまえにある生活の価値

自然にあたりまえにある生活の価値

新型コロナウイルス感染症が5類の位置づけとなりしばらくが経ちます。ここのところは少し心配な状況が続いていますが、それでも緩やかに日常を取り戻しつつあります。
先日、戸外あそび中のこども園幼児組の子どもたち数名が、テラスからそら組の様子を窓越しに眺めていました。3年強、多くの制約のなかで過ごしてきた子どもたちです。自由度の高い時間でも、子どもたち同士の直接的な関わりについて、一定のハードルがあることを体験的に知っています。ですから、躊躇なく入室したり了解なく身体に触れたりはありません。こども園の子どもたちは、この日、過ごし慣れない部屋に入り、ひと通りあそびの体験を済ませると、ゆったりと過ごしているそら組の子どもたちに意識が移り始めました。職員は、そら組の子どもの表情や動き、視線の向きなどを伝えながら、一人ひとりの子どもたちの状況や気持ちを代弁します。幼児組の子どもたちからの、いろいろな質問に対応しながら、ようやく訪れた機会の中で、ともに過ごす時間の価値と、感覚をフル活用して状況を受け止めようとするそら組の子どもたちの育ちも、私たちは改めて知るところとなりました。
さて、2023年度事業所事業計画の、子どもたちへの直接的な関わりに関する理念目標を一部ご紹介します。事業計画は、毎年行っております保護者アンケートの内容も含め、職員間で運営や活動、子どもたちの姿を振り返り、迎える次の年度に向けて大切にしたいことを職員それぞれが改めて言語化し、思いをまとめながら作り上げていきます。今年度は、子どもたちへの直接的な関わりにおける目標を、「子どもが、自己への肯定的な感情を育むため、安心できる環境の中で心身を休ませながら、さまざまな感情をありのままに表出し受け入れられる経験を積む」「子どもが、持って生まれた能力や培った機能を十分に活かし、有能感を感じながら、あそびや生活を主体的に意欲的に続ける」としました。これは、「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」に基づいています。そしてもちろんこの4月に施行された国内法「こども基本法」にもやはり通じるものとなっています。1994年、日本が国際法である「児童の権利に関する条約」に批准し、水面下での動きはあったものの、具体的に取りまとめる機関や国内法の整備はなかなか進まず、いよいよ2019年の国連からの勧告も後押しとなりようやく機が熟しました。こどもの権利に特化した法律の形が日本でもやっとできたのです。そうしてここからは、私たち一人ひとりの意識によるところが本当に大きくなります。なぜならば、こども基本法は、目指すべき方向性が示されたに過ぎないからです。福祉、保育、教育、医療などがこれまで以上に連携を図り、家庭とともに「まんなか」にいる子どものしあわせを協働して支えるのです。
先に挙げたエピソードのように、富丘は子どもたちにとっても一つの社会です。そしてそれは大仰なものではなく、自然にあたりまえにある生活です。富丘は開設初年度にコロナ禍に入っていきましたので、本来当然であったはずのこの価値観を今築き直している段階です。不安要素がなくなったわけではありませんが、それでも、保護者の皆さま、利用される皆さまより、施設の取り組みに一定のご理解をいただけること、そして情報をいただけることに感謝しながら、運営を続けております。誰しもが共にいきる場として社会が機能していくために、この富丘においても、「生きる」「守られる」「育つ」「参加する」権利を保障し、子どもたちの健やかな育ちを全力で支えていきたいと考えます。
園長 二村郁枝