有資格者インタビュー【緩和】

緩和薬物療法認定薬剤師ってなに?

緩和ケアとは、がんによる身体的・精神的な負担や苦痛を和らげるためのケアをいい、WHO(世界保健機構)では「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に関して、きちんとした評価を行い、それが障害とならないように予防したり、対処したりすることで、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)を改善するためのアプローチである」と定義しています。
本邦においては、がん対策基本法施行により、がんの予防、治療、緩和という3つの柱が明確になり、がんとわかった時点からがんの治療と同時に行う医療として緩和医療がより明確に位置付けられ、改めてその重要性が注目されています。
緩和薬物療法認定薬剤師とは日本緩和医療薬学会によって認定される薬剤師資格であり、緩和医療において欠かせない薬物治療(緩和薬物療法)について専門知識を持ち、適切な緩和薬物療法、医療用麻薬の適正使用や支援などに関する指導等を行える薬剤師です。緩和に用いる鎮痛薬の他、鎮痛補助薬、支持療法薬、抗がん剤など多種多様な医薬品の使用に関する薬学的知識だけではなく、医薬品の管理に関する法的知識も必要であり、チーム医療における役割は重要なものとなっています。

患者状態、薬物動態に基づく投与設計、処方提案

患者さんの身体的な背景を念頭に置きつつ、化学療法などの治療背景、腎・肝機能低下などの特殊病態下、薬物動態、薬理学的特徴、相互作用を考慮して個々の患者さんに適した薬剤選択と投与量設定を行い、医師と協議して薬物治療を決定しています。

薬剤管理指導、薬物治療モニタリング

患者さんとの面談を通して安全かつ最大の効果が得られるよう症状・効果・副作用の評価を行い、適宜薬剤使用法や調節方法・副作用の情報・対処法について患者さんにアドバイスします。疼痛だけでなく消化器症状や呼吸器症状といった身体症状、不眠・不安やせん妄などの精神症状、患者さんが受けている治療全般についても評価・リスク管理を行います。このとき得られた情報を基に薬剤選択や投与量調節を行っていきます。個々の症状に応じた使用量や使用タイミングを検討し、患者さんや家族と共に症状に向き合い、医療関係者からの指示がなくても医薬品使用是非を判断できるように説明や介入をしています。

医薬品情報の収集と提供

緩和ケアチーム処方のみでなく主科治療薬についても薬物動態・副作用発現頻度などの情報を収集し、チームメンバーへフィードバックします。緩和ケア領域では通常と異なる使い方をする薬剤も多く、その情報を他の医療者と共有するようにしています。

在宅治療支援、院外薬局との連携

退院時期に合わせて在宅で可能な用法・投与経路を検討して変更していきます。訪問看護や往診などが入るようなら使用薬剤や用法について薬剤情報提供を行います。患者さんのかかりつけ薬局に適応外使用や通常と異なる使用法に関して情報提供をしたり、服薬状況や副作用発現状況についてかかりつけ薬局からフィードバックをもらっています。

学術活動

医薬品の使用法、副作用等のエビデンスは日々更新されています。それらの最新の情報を収集し、他医療者や患者さんへの情報提供、医薬品管理などに活かして業務を行っています。緩和医療の分野はエビデンスが乏しいこともあるため、研究活動を通して自ら発信していくことも重要です。

薬剤師の教育

他の医療者へ緩和薬物療法に関する情報提供を行い、患者さんやその家族に適切な情報を提供できる人材を増やす活動をしています。

緩和チーム薬剤師の業務

  08:30~ 09:00~ 09:30~ 10:00~ 10:30~ 12:00~ 13:00~ 14:30~ 15:00~
事前準備
チームカンファ用資料作成
緩和チーム
カンファレンス
昼休憩 入院患者回診
医師と外来診察
事前準備 回診前共有 入院患者回診
医師と外来診察
昼休憩 入院患者指導
医師と
外来診察
F6病棟
カンファ
入院患者指導
医師と
外来診察
事前
準備
入院患者指導
医師と外来診察
昼休憩 入院患者指導
医師と外来診察
ホスピス病棟与薬車セット 昼休憩 入院患者回診
医師と外来診察
事前
準備
入院患者回診
医師と外来診察
昼休憩 週末用
処方依頼
入院患者指導
医師と外来診察

インタビュー

今の仕事内容は?
  1. 患者状態、薬物動態に基づく投与設計、処方提案
  2. 薬剤管理指導、薬物治療モニタリング
  3. 医薬品情報の収集と提供
  4. 在宅治療支援、院外薬局との連携
なぜ資格を取ろうと?
大学院生のときの研究テーマが医療用麻薬に関するものであり、薬剤師として就職する以前から医療用麻薬を用いた緩和医療に興味をもっていたため。
また、就職後も実際の緩和医療の現場に触れ、より深い緩和医療への知識が必要と感じて本格的に勉強を始めたこともきっかけの1つ。
この仕事の魅力は?
緩和ケアチームの一員として患者さんにより近いところで緩和医療に関わることができます。
他職種はもちろん様々な診療科に関わるため、幅広く症例に関わることができます。
仕事をしていて良かったと思うことはありますか?
痛みなどの苦痛症状で苦しんでいた患者さんが緩和医療を受けることで苦痛が軽減され、できなくなっていたことがまたできるようになったと報告してくれること。
資格取得までにはどんな活動を?
緩和薬物療法認定薬剤師への申請には別の特定の認定資格を得る必要があったため、そちらの取得のための学会参加 発表と並行して緩和医療関連の学会・勉強会へ参加するよう心がけました。
院内の医療スタッフ向けの勉強会で講師や、PEACE(緩和ケアおよび精神腫瘍学の基本教育に関する指導者研修会)のファシリテーターを務めました。
働いていて印象深い体験はありますか?
長期間に渡って関わってきた患者さんが亡くなったとき、普段の病棟活動では関わることができなかったお見送りに参加させてもらえたことがあります。
後輩へのメッセージはありますか?
緩和薬物療法認定薬剤師は医療用麻薬を初めとする鎮痛薬、鎮痛補助薬、抗がん剤はもちろん、苦痛症状の原因となる病態の知識なども幅広く求められるため、少々大変と思うかもしれません。ですが、これらの知識に基づき、苦痛症状の原因に対する薬物療法の個人に合わせた処方設計・提案ができるのは我々認定薬剤師の大きな強みです。
我が国ではがん対策基本法によって緩和医療の重要性が増してきており、ホスピス・緩和ケア病棟をはじめ、一般病棟や在宅といった場面でも緩和ケアを充実させることが求められています。こうしたニーズの高まりの中、緩和医療における薬物治療のスペシャリストとしてチーム医療に参画できるよう、より多くの方に緩和医療に関心を持ち、資格取得を目指していただきたいかと思います。