E.予後の予測
生命予後の予測は、患者の意向を反映した治療を選択するうえで重要ですが、医師は患者の生命予後を実際より長く予測する傾向があることが知られています。
これまでに、世界各国で生命予後を予測する方法が開発・研究されてきました。
ここでは、代表的な予後予測指標の使い方を解説します。
1.PaPスコア(Palliative Prognosis Score)
中期的な予後(月単位)を予測する代表的な指標です。臨床的な予後の予測が主に得点を決める要素で、これに加えて、Karnofsky Performance Scale(資料1)、食欲不振、呼吸困難感、白血球数、リンパ球の割合、の合計得点を算出します。
臨床的な予後の予測 | 1~2週 3~4週 5~6週 7~10週 11~12週 13週以上 | 8.5 6.0 4.5 2.5 2.5 0 |
---|---|---|
Karnofsky Performance Scale | 10~20 30以上 | 2.5 0 |
食欲不振 | あり なし | 1.5 0 |
呼吸困難 | あり なし | 1.0 0 |
白血球数(/m㎥) | >11000 8501~11000 ≦8500 | 1.5 0.5 0 |
リンパ球 (%) | 0~11.9 12~19.9 ≧20 | 2.5 1.0 0 |
資料1 Karnofsky Performance Scale
正常の活動が可能。 特別な看護が必要ない | 正常。臨床症状なし。 | 100 |
---|---|---|
軽い臨床症状はあるが、正常活動が可能。 | 90 | |
かなり臨床症状があるが、努力して正常の活動が可能。 | 80 | |
労働は不可能。 自宅で生活できる。様々な程度の介助を必要とする。 | 自分自身の世話はできるが、正常の活動・労働は不可能。 | 70 |
自分に必要なことはできるが、ときどき介助が必要。 | 60 | |
病状を考慮した看護および定期的な医療行為が必要 | 50 | |
身の回りのことが自分でできない。 施設・病院の看護と同様の看護を必要とする。疾患が急速に進行している。 | 動けず、適切な医療および看護が必要。 | 40 |
全く動けず、入院が必要だが死は差し迫っていない。 | 30 | |
非常に重症、入院が必要で精力的な治療が必要。 | 20 | |
死期が切迫している。 | 10 |
PaPスコアの解釈
1.カットオフ値を用いる場合
得点 | 予測される予後 | |
---|---|---|
9点以上 | 21日以下(週単位)の可能性が高い | |
5.5点以下 | 30日以上(月単位)の可能性が高い |
2.生存曲線を用いる場合
Group A :0-5.5点
Group B :5.6-11点
Group C :11.1-17.5
の3群に分けます。
対象患者の背景を、一般病棟入院中、ホスピス・緩和ケア病棟入院中、在宅、化学療法を受けている緩和ケア介入中の患者、に分けると、それぞれの群で以下のような生存曲線になります。
2.PPI(Palliative Prognostic Index)
短期的な予後(週単位)を予測する指標です。死亡直前を予測する指標として使用しやすいものです。Palliative Performance Scale(資料2)、経口摂取の低下、浮腫、安静時呼吸困難、せん妄、の合計得点を算出します
Palliative Performance Scale | 10~20 30~50 60以上 | 4.0 2.5 0 | |
---|---|---|---|
経口摂取量* | 著明に減少(数口以下) 中程度減少(減少しているが数口よりは多い) 正常 | 2.5 1.0 0 | |
浮腫 | あり なし | 1.0 0 | |
安静時呼吸困難 | あり なし | 3.5 0 | |
せん妄 | あり(原因が薬物単独のものは含めない) なし | 4.0 0 | |
*:消化管閉塞のため高カロリー輸液を施行している場合は0点とする |
資料2 Palliative Performance Scale (PPS)
●PPSの求め方
項目は、左側(起居)から右側に、優先度が高い順に並べられている。左から順番にみて、患者に最もあてはまるレベルを決定する。
% | 起居 | 活動と症状 | ADL | 経口摂取 | 意識レベル |
---|---|---|---|---|---|
100 | 100%起居している | 正常の活動が可能 症状なし | 自立 | 正常 | 清明 |
90 | 正常の活動が可能 いくらかの症状がある | ||||
80 | いくらかの症状はあるが、努力すれば正常の活動が可能 | 正常 または 減少 | |||
70 | ほとんど起居している | 何らかの症状があり通常の仕事や業務が困難 | |||
60 | 明らかな症状があり趣味や家事を行うことが困難 | 時に介助 | 清明 または 混乱 | ||
50 | ほとんど座位か横たわっている | 著明な症状がありどんな仕事もすることが困難 | しばしば介助 | ||
40 | ほとんど臥床 | ほとんど介助 | 清明 または 混乱 または 傾眠 | ||
30 | 常に臥床 | 全介助 | 減少 | ||
20 | 数口以下 | ||||
10 | マウスケアのみ | 傾眠 または 昏睡 |
PPIスコアの解釈
1.カットオフ値を用いる場合
得点 | 予測される予後 |
---|---|
6.5点以上 | 21日以下(週単位)の可能性が高い |
3.5点以下 | 42日以上(月単位)の可能性が高い |
2.生存曲線を用いる場合
Group A :0-2点
Group B :2.1-4点
Group C :4.1-15
の3群に分けます。
対象患者の背景を、一般病棟入院中、ホスピス・緩和ケア病棟入院中、在宅、化学療法を受けている緩和ケア介入中の患者、に分けると、それぞれの群で以下のような生存曲線になります。
3.PiPSモデル(Prognosis in Palliative care Study predictor models)
近年イギリスで開発された新しい予後予測の指標です。全身状態や症状に加え、血液検査所見(白血球数、好中球数、リンパ球数、血小板数、尿素、ALT(GPT)、ALP、アルブミン、CRP) を含めて、非常に多くの項目から得点を算出します。血液検査所見を使用しないA modelと血液検査を含めた項目を使用するB modelがあります。この指標の計算方法は、データをwebサイトに入力すると、結果として予測される予後が日単位(14日以下)、週単位(15日から55日)、月単位(56日以上)、のように戻ってきます。
PiPs モデルのHPはこちらです。
PiPS model
*血液データの単位が日本のものと一部異なります。
WBC、好中球、リンパ球の単位は 109/L です。
例)4500個/μL→4.5×109/L
BUNの単位はmmol/Lです。mg/dlに0.357をかけるとmmol/Lになります。
例)20mg/dl→7.14mmol/L
計算式の詳細についてはこちらをご覧ください。計算用のエクセルが診療部フォルダ-緩和ケアチームにはいっています。必要な方は緩和ケアチームに連絡ください。
生存曲線を用いたPiPSモデルの解釈 PiPS-A
Group A :日単位
Group B :週単位
Group C :月単位
の3群に分けます。
対象患者の背景を、一般病棟入院中、ホスピス・緩和ケア病棟入院中、在宅、化学療法を受けている緩和ケア介入中の患者、に分けると、それぞれの群で以下のような生存曲線になります。
生存曲線を用いたPiPSモデルの解釈 PiPS-B
Group A :日単位
Group B :週単位
Group C :月単位
の3群に分けます。
対象患者の背景を、一般病棟入院中、ホスピス・緩和ケア病棟入院中、在宅、化学療法を受けている緩和ケア介入中の患者、に分けると、それぞれの群で以下のような生存曲線になります。