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生活支援指針

生活支援について

重症心身障害児(者)施設・おおぞら療育センターへ入所・通所している障害児(者)に対し、職員が果たす生活援助業務の具体的指針を示す。対象は、有意な言語理解・表出がみられず、また、自己に不利益となるかもしれないという可能性を意識して選択を行うことができない人を想定している(これより軽症の知的障害に対しては別途定める)。

Ⅰ.生活支援の基本的考え方

  1. 支援をおこない提供する生活のモデルは、同時代、同地域の「ふつうの暮らし」である。

  2. 「説明と同意」に基づいた生活行為の選択は不能なので、職員が最良の選択を代行し、支援行為を実践するほかはない。その妥当性は、実践後の本人の表出を参考にして判断せねばならぬ。
    *「説明と同意」が成立するためには、①十分な説明がされる、②説明を理解し、判断する能力がある、③自由な判断を妨げる状況はない、といった条件が必要である。こうした条件が揃ってなされた選択に対しては、結果責任を負わねばならぬ。不利益な結果となっても、受け入れねばならぬ。これらの条件を満たした範囲内でのみ、自己選択は可能である。

  3. 安全確保は、全ての生活支援計画・実践の前提である。安全確保のために、プライバシーが制限されるのはやむを得ない。自己の利益を損ない、危険に繋がる選択は受入れられない。ひとりでいることを認めるのは、移動可能な範囲内には危険なものがないか、危険な行為をおこなわないであろうと判断される場合のみである。安全を確保するための方策には、ヒトは誤るものだ、機械は壊れるものだという視点が必要である。

  4. 「個の尊厳」は護らねばならぬ。理解がないため、犯されたと認識されなくても、また、そのための行為を本人が好まなくても護る。言い換えると、これに該当しないものでは、本人が認識できないことや、明確な要求がないことに対して、施設の人的物的状況をもとに判断しても、「人権を犯している」という非難には当たらないことになる。個の尊厳が犯されているとみなすのは、以下の事項である。
    1)過度な身体の不潔(一般社会的通念で「汚い」とみなされるもの)
    2)排泄物がまみれている状況(臭気が続いている、外から尿便が見える状況)
    3)性器(女性は乳房も含む)が、介助者以外に露出されること
    4)著しく不適切な容姿(服装・髪型など)
    ①一般社会通念上みすぼらしい、奇異とみなされる
    ②年齢・性にみあった容姿から著しく逸脱している
    ③過度に画一的服装(制服は必要ない)
    ④さらし者とみなされる(自発的でなく、注目される状態をとらされる)
    ⑤侮蔑語を投げかけられること。蔑称や不適切な呼称(年齢・性にみあっていない)で呼ばれること。
    ⑥専有空間の過度な制限(拘禁)や行動制限
    *動きのある人を職員側の都合で安易に車椅子に乗せて過ごすことは行動制限とみなす。安全を確保するため、部屋以上の広さを持つ空間内に、鍵を掛けて行動制限することは容認される。ただし、他害の可能性がある場合は、最小限の時間に限り、部屋内に行動が制限されることは許容される。また、医療処置などの安全確保のため、自傷行為の抑制のため、行動を制限することは容認される。ただし、格子状屋根構造を持つベッド(檻を連想させる)の使用は容認されない。
    ⑦身の回りに専有物がない(歯ブラシ・着衣は占有すべき)
    ⑧暴力を受ける
    *教育・躾のためとしても、職員は暴力を振るってはならない。

  5. 職員は、障害児(者)の生活支援をおこなう専門職であり、かつ性を超えた存在である。専門職としての自覚を持ち、性に十分な配慮をして、異性の介助をおこなわねばならない。

  6. 教育・訓練といった機能向上を目的とした働きかけは、原則として、成人年齢では不要である。ただし、機能退行を妨げる目的の働きかけはありうる。

  7. 特定の行為に対して対象者が持つ意味は、健常者と同一では、まずあり得ない。以下の4点を総合的に考え、特定の行為が個々の対象者にとって持つ意味を推測しなければならぬ。
    ①自分自身(健常者)にとっての意味(ヒトとしての共通性)
    ②想定した発達年齢の健常児にとっての意味
    ③対象の障害に起因する意味の変容(障害故に健常者と同じ意味を持てない場合)
    ④対象の生活歴・社会経験に起因する意味の差異
     なお、その行為を実践した後、対象の反応を評価し、必要があれば、その意味を速やかに修正せねばならぬ

*「・・・が分からない」、「・・・ができない」と評価するのを躊躇したり、罪責感を持つのは誤りである(失礼である、人格を否定する、誹謗するなどと思ってはならない)。また、部分的に理解していたり、部分的にできた行為を拡大解釈して、「これも分かる」、「これもできる」として、限界を無視し、健常者と同等とみなしてはならない。過大評価した虚像を作りあげていたら、正当な生活支援行為は行い得ない。

Ⅱ.日常的生活行為

a.排泄介助

  1. オムツは紙オムツを使用する。
  2. オムツは排泄障害に対する下着の代替品である(使い捨て下着)。オムツの使用は、個の尊厳を犯さない。排泄物で着衣を汚すことを常態とするのは(すぐ着衣を変えたとしても)、個の尊厳に抵触する。
  3. 尿意・便意の表出が明らかでなく、トイレに連れて行くタイミングが図れないならば、オムツ使用の対象とする。定時トイレ誘導で、たいていトイレで排泄することが可能ならば、この限りではない。ただし、こうした排泄法は不安定なので、不成功な事態が続いたら、放棄すればいい。
  4. オムツの交換は、定時を原則とする。一律に定刻におこなうのではなく、一日の生活の流れの中に組み入れる。排尿が大量な時、排便がみられた時は、随時交換する。濡れていないオムツを替える必要はない。
  5. トイレでの排泄を促す訓練は、小児期に終わればいい(15歳を越えてトイレトレーニングは不要である)。
  6. 夜尿を防止するために、夜間覚醒させて排尿を誘導することは不要である。
  7. トイレ内排泄をおこなう場合の安全確保は、プライバシー確保に優先する。便座で支えなく座位姿勢がとれ、トイレ内で危険な行為をおこなわない確信がなければ、トイレ内で安全を監視しなければならない。

b.身だしなみ(衣服・毛髪・整容)

  1. 性・年齢にみあった平均的服装・髪型(髭も)とする。
  2. 化粧は不要である。
  3. 仮装はさせるべきではない。

*「偽りの自分を装う」という理解がない人に仮装されることは、人形のように扱われているとみなされ、個の尊厳に抵触する。「化粧し、素顔から好ましく変容した自分」という理解がない人に化粧させることは、これも人形扱いとみなされる。素顔(平均的な整容を伴った)を尊重すべきである。一般的に醜形とみなされるものに対する美容行為は例外である(義眼もこれにあたる)。

c.私有物と共有物

  1. 衣服(パジャマも)・下着は私有(「専有」の意)とする。
  2. 寝具、シーツは共用とする。
  3. タオルは共用とする。
  4. 歯ブラシは私有とする。
  5. 食器は共有とする。
  6. 嗜好の対象(固執の対象も含む)は私有とする。ただし、本人だけではなく、周りの人が異食による危険が想定される場合には、身の回りに置かない。

d.呼称

  1. 「・・さん」が原則である。ただし、年齢、性別に見合った呼び方を検討する必要がある。

e.食事

  1. 通常の摂食介助では、本人の摂食能力に合わせて、以下の3点を満たす食べ方を目標とする。①安全に(できるだけ、むせないようにする)、②楽に(あるいは、速く)、③多様な食品が食べられる。
  2. 摂食障害に対する機能向上を図る場合は、通常の摂食とは区別して扱う。機能向上のための摂食と、上記3点を満たす摂食は、たいてい相容れない。小児期年齢を過ぎれば、機能向上のための訓練は、原則として不要である。
  3. 重症心身障害者は健常者に比し、早い年齢で、摂食機能が低下することが多い。こうした場合に、経管栄養の導入を躊躇する必要はない。
  4. 各人の摂食障害に対応して、最適な食形態・摂食姿勢・摂食介助法が確定されねばならない。

f.姿勢

  1. 自分で好む姿勢をとれない人の適正な姿勢は、安楽であることを基準に判断する。変形を矯正する姿勢は、まず安楽に反するので、とらないものとする。呼吸困難を軽減させることは、安楽にも合致するので、適正な姿勢を決定する重要な点である。
  2. 褥瘡予防・排痰のためには、安楽ではない姿勢もとる必要がある。
  3. 自分で姿勢を変えることの出来ない人に見たいものを見せる姿勢をとらねばならない。

Ⅲ.活動

  1. 活動は、日常生活を構成する一要素である。

  2. 適正な活動・作業は以下の3点を満たしている必要がある。
    ①満足感や達成感が得られる、②能動性である(受け身だけではいけない)、③ 創造性がある(新しい面を発見できる)。

  3. 本人のできることで、本人にとって新しい価値を発見できるであろうと見込める課題を設定する。課題遂行に介助が必要なはずであり、職員はこの課題遂行に参加する。この課題が本人に価値を持った時に、その証人となるとともに、その価値を本人とともに共感する役目を負う。

  4. 活動の意義は、前3要素の達成度で評価されねばならぬ。健常者と同じ価値観で評価してはならない。

  5. 特定の物を製作する場合は、その工程の中に目的が完結していなければならない。

  6. 危険を排除するために多大な労力を要する道具・材料(アイロン、刃物、毒物など)を使ってはならない。

  7. 成人の興味関心の適応行動が健常小児と相応であったとして、成人の活動で使う素材は子供扱いとみなされるものであってはならない。

Ⅳ.外出

  1. 外出の価値は、非日常の世界を体験することである。目的は、対象者がいつもと違う快または満足感が得ることである。健常者が誰でも経験するようなことは、一度は経験をする意義はある(ノーマライゼーションの理念に適う)。ただし、この場合は事後の評価をおこない、不調ならば、同じ轍を踏まないように、経験の蓄積を怠らないようにしなければならない。

  2. 今までの生活経験から築いてきた安全・快適の環境は外出先では望めない。また不測の事態も起こりやすい。環境が不備なため、移動介助のため、施設内での活動より、多くの人手を要する。良い結果を得るための条件は、外出は極めて劣悪であり、同目的の非日常的活動を施設内でおこなえないかをまず検討すべきである。対象者に対する深い障害理解がなければ、こうした企画はできないが、職員の専門的能力の発揮すべきところとして追求すべきである。その結果、視聴覚・触覚の感覚の受け身的活動が多用されてもいい。

  3. 外出先を選定する時、その外出に求める目的は、健常者と決して同じではないので、対象者ごとに目的を事前に明示すべきである。漫然と健常者と同じ価値を求めて、危険で人手の掛かる外出をおこなうのは無謀である。また、外出先は同じでも違う目的を設定できる。条件のいい外出先は限られるので、一定数の外出先に固定されるのは妥当である。以前行ったことがあるという理由で、選択から外す必要はない。

  4. 外出先への移動については、二通りのことが考慮されねばならぬ。姿勢保持に問題がある人の場合は、移動中の固定姿勢は不快な体験と認識すべきである(危険性もある)。移動時間は極力短くすべきであり、移動の負担に勝る大きな見返りのある体験が移動先で設定されていなければならない。姿勢保持に問題がない人で、車中の時間が快体験となる人の場合は、移動自体を外出目的のひとつに設定してもいいし、移動時間は長くてもいい。

  5. 外出先の人混みは、外出目的を決定的に損なうものである。この理由から、健常者社会の期間限定の人気のイベントを外出先に選ぶべきではない。人気のイベントに対し、対象者が健常者と同じ期待を持つことはありえない。例外的に、家族の価値を優先させ、家族同伴で行かせるならば、こうした選択はありうる。

  6. 厳格に時間が設定されていたり(開演時間など)、静粛などのマナーが必要なイベント(コンサートなど)は不適切な外出先である。健常成人と同じ目的を持たなくても、健常成人と同じルールを強いられる不利をあえて冒す必要はない。同じ目的は、もっと他の手段で得られるよう追求すべきである。

  7. 無為(のんびりする、何もしないなど)を目的とした外出はありえない。健常成人は、仕事や社会的束縛から一時的に逃れることを目的としてリゾート・温泉地に行くが、これと同じ目的は、施設内で最も容易に企画・達成することができる。

  8. 危険な事態が起こりやすい所(例えば、プール)や、外傷の危険の高い所(例えば、氷上)にあえて行くべきではない。医療的な重症者は、緊急医療体制が不備な地域には行ってはならない。救急車がすぐ来られない所は最低限の安全が保てない。

Ⅴ.問題行動

*「問題行動」は、使うことを躊躇する差別語ではない。

  1. 行動上の問題が発生した場合、まず精神症状である可能性の判断を医師に求める。精神症状と判断されれば、向精神薬投与をおこなう場合もある。

  2. 奇異な行動と映っても、“ふつう”の表出が変容したものではないかと探り、思い当たれば、この表出(仮説的でいい)に答える。こうした応答が成立して、本人も周りも困らなければ、問題はないとする(「問題行動」にも当たらない)。

  3. 奇異な行動だが(あるいは社会的逸脱行動とみなされても)、本人も他者も困らないものなら放任する。この行動によって、本人の生活の豊かさに重大な制限がもたらされるならば、本人が困るとみなす。他者にほどほどの我慢を求める場合もある。癖のたぐいや、一部常同行動が、この放任する行動に当たる。

  4. 自分は困らないが、他者が困る場合は、この行動の矯正を図る。社会ルール違反や破壊・他害といった行動がこれに当たる。矯正が不調ならば、他者が困らないように生活環境の調整などをおこなう。*行動の矯正を図る時、その原因を仮説的に想定し、原因を取り除くことをまずおこなう。*問題の矯正が不調で、これを受け入れて調整を図る時、これを個性的行動として神聖化し強化してはならない。

  5. 他者は困らないが、自分が困る行動の場合は、この行動の矯正を図る。自傷が最も重大な問題である。固執(あるいは、「こだわり」)や常同行動などのように、これにより生活の豊かさに重大な制限がもたらされる場合も該当する。矯正が不調ならば、自分が困らないように周囲の調整をおこなう。固執をなくすのは難しいので、これを受け入れて調整を図った方が得策である。自分の困り方の少ない別の行動に誘導することも妥当である。

  6. 自分も他者も困る行動(破壊・粗暴など)には、矯正を図る。同じく不調ならば、調整をおこなう。

  7. 問題行動として評価を要するのは以下のような行動である。

  • 異常摂食-異食、反芻、意図的(または習慣的)嘔吐(または吐き出し)、拒食、過食など異常排泄行動-不適切な場所での意図的排泄、便こねなど
  • 睡眠時異常行動-夜間目覚めた時、騒いで他者の睡眠を妨げる
  • 自傷-出血したり発赤・腫脹するような打撲、外傷、咬傷など
  • 他害-他者への身体的攻撃的行動(殴る、噛みつく、蹴る、髪引きなど)
  • 破壊的行動-家具・衣服の破壊など
  • 不適切な発声(奇声・大声・涕泣・怒声など)
  • 不適切な移動(多動・飛び出し・徘徊など)
  • 過度な固執-自分のこだわりを必要に主張し、受け入れられないとパニックとなる
  • 過度な衝動性-我慢できず、対処困難なパニックとなる
  • 常同行動-周囲へ無関心となる繰り返し行動
  • 性的逸脱行動-人前での性器露出・自慰行為など

 8.問題行動の対応策を考えるに当たっては、先行事象(行動の前の状況)、行動、後続事象(行動の結果)の因果関係を
   仮定する。対応策により、結果が良ければ仮説が正しかったとする。
2011年4月改訂
2019年2月改訂