理事 彦坂浩史:(2022年5月号)見るまえに跳べ
見るまえに跳べ
中学の入学式、担任教師が自己紹介で座右の銘は「見るまえに跳べ」と紹介するのを聞いた。時代劇やヒーローものの主人公が、ここぞという場面で発する台詞のように印象に残った。その後、自宅の本棚に大江健三郎の同名の短編集を発見、大江作品を読みあさる始まりにもなり、自分が勇気をふるって一歩を踏み出そうという時、必ず思い出す言葉になった。
中学の入学式、担任教師が自己紹介で座右の銘は「見るまえに跳べ」と紹介するのを聞いた。時代劇やヒーローものの主人公が、ここぞという場面で発する台詞のように印象に残った。その後、自宅の本棚に大江健三郎の同名の短編集を発見、大江作品を読みあさる始まりにもなり、自分が勇気をふるって一歩を踏み出そうという時、必ず思い出す言葉になった。
シベリア画家香月泰男の装丁にも味わいが
ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎の本を読んだことのある方は多いと思う。タイムスリップした感の文章と、大江健三郎自身が云われているとおり、読みにくい文体は、最近の流行りではないだろう。とは言え、私は触発され、思考することや行動することを志し、ヒューマニズムの普遍性を感じた。45年後の自分がどうであろうと、大きく影響されたことに違いない。「見るまえに跳べ」はそんな大江作品とのきっかけでもあり、わりと保守的で臆病だと自己認識していた私にとって、迷ったり悩んだりした際、その都度自分に言い聞かせてきた言葉。コンプライアンスが重視される今の時代に後先考えずに飛び込むことはリスクでしかなく、「本気になれない世代」にはまったく受け入れがたい言葉かもしれない。経験的には、見てしまうと跳べないもの。あれこれ対策を講じても、最終的には跳ぶ瞬間の恐怖を乗り越え跳ばなければならないこともある。
聖隷人の使命のひとつに「未来を築く」がある。これは先人たちの先駆的・開拓的精神を継承することで、地域社会に貢献するという決意。時には、自分たちで道を切り拓くことになるが、受け身な姿勢では見えてこないことが見えてくるはず。きっと先人たちは自分の足で歩いている、自分の力で生きているということを実感されていたことだろう。
聖隷人の使命のひとつに「未来を築く」がある。これは先人たちの先駆的・開拓的精神を継承することで、地域社会に貢献するという決意。時には、自分たちで道を切り拓くことになるが、受け身な姿勢では見えてこないことが見えてくるはず。きっと先人たちは自分の足で歩いている、自分の力で生きているということを実感されていたことだろう。
今年は東海道新幹線のぞみ30周年
「見るまえに跳べ」と同じくらい好きな言葉が「時刻表に乗る」。鉄道に乗るという趣味を社会に認知させた作家・宮脇俊三の言葉。
コロナ禍や緊迫する国際情勢のニュースから「共感疲労」に苛まれている方も多いかと思う。特に、医療・福祉に従事する者は「共感する」教育を受けているから尚更。そんな時は鉄道旅で気分転換したいところだが、現状では読んで旅するしかないと諦めている。
コロナ禍や緊迫する国際情勢のニュースから「共感疲労」に苛まれている方も多いかと思う。特に、医療・福祉に従事する者は「共感する」教育を受けているから尚更。そんな時は鉄道旅で気分転換したいところだが、現状では読んで旅するしかないと諦めている。
日本の世界文化遺産をめぐりませんか
お薦めは宮脇さんの『時刻表2万キロ』、鉄道好きの中年男がゲーム感覚で旅をするという鉄道ファンにとって「いつかはやってみたい」という願望を掻き立てられるエッセイ。宮脇さんは雑誌のインタビューで「好きな時刻表は?」というマッチングアプリでは聞いたことのない質問に「昭和42年春号」と即答し、「乗りたい電車は?」には「全部乗っちゃったからなぁ」という強者。ということで、コロナ禍が過ぎたら「鉄印帳」と「世界文化遺産スタンプシート」を持って出かけます。