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ホーム > Ⅲ呼吸器症状  >  A.呼吸困難感(癌による不可逆性の場合)

A.呼吸困難感(癌による不可逆性の場合)

ページの目次


Overview

呼吸困難(がんによる不可逆性の場合)

一般治療で回復可能な要因を除外してください。肺炎、心不全、不整脈、貧血、胸水、心嚢水、気道狭窄、喘息、代謝性アシドーシス(腎不全)など。

日和見感染が疑われる場合、呼吸器内科か総合内科に相談してください。

死亡直前に酸素飽和度は良いが頻呼吸で呼吸困難を訴える場合、代謝性アシドーシスによる死亡が迫っている可能性があります。

死亡直前期では気道分泌/浮腫/呼吸困難感増悪すれば輸液減量(500mL以下)を推奨します。特に、ルートキープのためだけの持続点滴はせん妄の原因にもなるので、必須でなければ、日中間欠投与にしてください。オピオイドは持続皮下注にすれば夜間のルートキープは必要なくなります。

喀痰に対しては、去痰剤(クリアナール、カルボシステイン、エリスロシンなど)、理学療法、吸入などを検討してください。


呼吸困難の緩和治療のoverview


モルヒネ・抗不安薬の頓用アルゴリズムのoverview



緩和的薬物療法(全身投与)

ステロイド

副作用を許容できるならば、ベタメタゾン4~8mgの投与。

根拠のレベルは低いですが、classicalによく行われる方法です。効果あれば有効量までtaperingすることが勧められています。

一般的な副作用(血糖、ムーンフェイス、感染症、胃潰瘍)に加えて、終末期では、精神症状(せん妄)を励起することがあります。生じた場合は中止するか、呼吸困難が軽減していて継続するならば抗精神病薬を併用投与します。

気道狭窄、上大静脈症候群、明瞭な多発肺転移では比較的シャープに効果のある方が多いです。胸水、全身衰弱では効果がありません。


オピオイドの全身投与

呼吸困難にモルヒネを投与すると、効果の幅は少ないが有意な呼吸困難改善効果があることが確かめられています。全身状態が良い場合(外来レベル)には、必ずしも意識やバイタルの低下を引き起こしません。

下のグラフは、進行がんによる呼吸困難のある患者(SpO2 90%以上を保てている患者が対象です)にモルヒネを投与後の、呼吸回数、SpO2,CO2の経時的な変化をみたものです。モルヒネ投与後もSpO2の低下、CO2上昇はないことが示されています。またこの対象となった患者の呼吸数は平均41回で、モルヒネ投与後はこれが27回程度となり、頻呼吸が緩和され呼吸困難の緩和が得られていることがわかります。
このことから、呼吸不全がない、呼吸回数が多い呼吸困難感に対して、モルヒネが有効かつ安全に使用できることがわかります。

呼吸困難に対するモルヒネに上限があるかどうかは定説がありませんが、近年は、呼吸困難に効果のあるモルヒネは比較的低用量(10~20mg/日まで)であるといわれるようになりました。それ以上は、「明確に効果がある」と患者が評価するなら増量可能です。眠気が増えたり、患者が評価できない場合、それ以上の増量は呼吸困難の緩和というよりも鎮静の意味合いになってくるため、単純にモルヒネだけを増量することは推奨されていません。治療目標をどこにおくかを相談して、「眠気がでてもとにかく楽に」なら、鎮静薬を併用することも考えてください。



全身状態が不良な場合(入院レベル)は、「傾眠状態で苦痛がない」を目的とせざるをえない場合も多くあります。

喀痰喀出困難による呼吸困難は喀痰管理ができないと薬物治療は難しいです。看取りの時期では、ハイスコで分泌抑制ができますが、鎮静され、会話は困難になることが多いです。

状態の悪い人では、何を目的とするかでちがいますので、まず、患者さんやご家族と、「意識を保って頑張りたい」方向へ傾けるのか、「眠気が出ても、とにかく楽に」に傾けるのかを相談して、目標を立ててください。

モルヒネに上限はないですが、ミオクローヌスやけいれんが起これば過量投与なので、減量できないならベンゾジアセピンを併用する場合があります。ドルミカム0.1~0.2Aをポンプに入れるか、単独でもう1つポンプを付けて併用してください(少量であれば、完全な鎮静にはなりません)。


オピオイド初回投与の処方例
経口・坐薬・「呼吸困難時 コデイン20mg(または、オプソ0.5~1袋、アンペック坐薬10mg 0.3~0.5個)」とまずオーダーし、数回使って良さそうなら定期投与にする。
・コデイン20mg 2~4T 分4、定期的投与とし、「呼吸困難時コデイン1回分」とオーダーする。コデイン120mgになったらモルヒネ20mg相当なので、モルヒネへ切り替える。
・モルヒネ徐放剤20mg(MSツワイスロンなど)またはナルサス2mgを、定期的投与とし、「呼吸困難時 オプソ5mg」とオーダーする。
・オプソ1回5mg 10~20mg 分2~4、定期投与とし、「呼吸困難時 オプソ5mg」とオーダーする。
皮下・静脈「麻薬注射薬:院内統一フォルダ内容一覧と指示の出し方」を参照してください。
既にオピオイドが投与されている場合の処方例
・ 眠気を来さないように慎重に経過を観察する必要がありますので、モルヒネ1日量の20%ずつ増量してください(緩和ケアチームに相談してください)。
・ ベースアップ20%ずつ/日 頓用早送り1~2時間分が基本です。

抗不安薬

せん妄が合併する時は「IV-Aせん妄」を参照してください。

呼吸困難全体を対象とした抗不安薬の投与はRCTで有用性が不利益を上回らないので、ルーチンの投与は勧められていません。基本的には「不安・焦燥状態を示す患者」でのみ併用が推奨されています。
最近ではモルヒネと少量の(意識が下がらないような0.25A/日程度の)ミダゾラムを併用することがすすめられる場合もあります。

不安時・発作時にしっかり効く「大丈夫」な薬を1つみつけられると、患者のコントロール感が強まります。

定型的には、アルプラゾラムやロラゼパムを頓用で使ってみて、良ければ1日2~6Tまで投与します。

内服ができない時は、定型的な方法がありませんが、以下の薬剤が経験的に使用されます。

いずれも強くなれば呼吸抑制のリスクは負うことになります。ダイアップ坐薬は、やや傾眼になることが多いです。


処方例
呼吸困難時アルプラゾラム1T又はロラゼパム1T
セルシン0.5~1A 舌下
アタラックス 0.5~2A皮下・生食20mL静注
セニラン坐薬0.5~1個
ダイアップ坐薬4~6mg
ワコビタール坐薬30~100mg


まとめ

「意識を保ってがんばりたい」ならステロイド、屯用の少量オピオイド、で様子を見る。

「眠気が出ても、とにかく楽に」なら、全身性のオピオイド導入。投与後すみやかにバイタル・意識が低下する場合と、傾眠程度で呼吸困難だけが緩和される場合とがあります。
SpO2<93%、PS=4(vs 3)の場合に、より鎮静になりやすくなります。