呼吸器外科

メッセージ

呼吸器外科では肺がん、気胸、縦隔腫瘍、膿胸、気道狭窄、胸部外傷など心大血管食道を除く胸部に関する多数の疾患を治療しています。専門医が充実しており、低侵襲手術から高難度手術まで質の高い医療を提供しています。「科学的根拠に基づいた最新の医療(エビデンスに基づく医療)」を大切にし、患者さんにとって最善の治療を提供することを心掛けています。手術や化学療法など、予定されている治療については、その目的や方法、予想される効果や副作用まで丁寧にご説明し、ご納得いただいた上で治療を進めています。私たちは、患者さんやご家族の想いを大切にし、一人一人の気持ちに寄り添った医療の提供に努めています。「自分自身や大切な家族が病気になったときに、安心して受けたいと思える医療」を常に心掛け、皆さまから信頼される診療を目指しています。
院長補佐 棚橋 雅幸

主な対象疾患

  • 肺がん
  • 縦隔腫瘍
  • 気胸
  • 膿胸
  • 胸部外傷

専門的な治療・活動の紹介

呼吸器外科の取り組み

  • 肺がんや縦隔腫瘍に対して、体への負担が少ない低侵襲手術(ロボット支援手術や単孔式胸腔鏡手術など)を積極的に行っています。
  • 小さな肺がんに対しては、がんの根治性を保ちつつ、できるだけ肺の機能を温存する手術(区域切除術や部分切除術)を目指しています。
  • 手で触れることが難しい末梢の小型肺がんには、コンビームCTを用いて腫瘍を正確に特定し、精密な切除を行っています。
  • 進行した肺がんには、より根治性を高めるため、周囲の臓器とともに切除する拡大手術(隣接臓器合併切除、気管支や血管の形成術など)を行っています。
  • 進行肺がんに対しては、手術だけでなく、術前・術後の抗がん剤治療や放射線治療を組み合わせた集学的治療も取り入れ、治療成績の向上を図っています。
  • 気管の中にできた病変に対しては、内視鏡(気管支鏡)を使った治療(ステント留置、レーザー治療、バルーン拡張など)を行い、気道を確保し、症状の緩和と根治治療への橋渡しを行っています。
  • 再発を繰り返す気胸には、気管支鏡や外科的手術による早期の治癒を目指した治療を行っています。
  • 膿胸や肺の感染症に対しても、早期治癒を目指し呼吸器内科と緊密に連携をとり外科治療を行っています。
  • よりよい治療法を確立するため、臨床試験にも積極的に参加しています。
  • 安全で最適な医療を提供するため、医師、看護師、リハビリスタッフなどが連携する「多職種チーム医療」を実践しています。

対象疾患

肺癌、縦隔腫瘍、転移性肺腫瘍、気胸、膿胸、胸膜中皮腫、感染性肺疾患、気管気管支狭窄、胸部外傷など

原発性肺がん
肺がんは、日本で死亡原因の上位を占める病気で、特に中高年の男性に多くみられます。しかし、女性やたばこを吸わない方にも発症することがあり、誰にでも起こりうる病気です。初期の肺がんは自覚症状が出にくく、健康診断や人間ドックの胸部レントゲンやCT検査で偶然発見されることが多くなっています。症状が現れる場合には、以下のようなものがあります。
  • 長引くせき
  • 血の混じったたん(血痰)
  • 胸の痛み
  • 息切れ
  • 声のかすれ など
診断と分類

肺がんの診断には、レントゲン・CT・PETなどの画像検査のほか、気管支鏡やCTガイド下の針生検などでがん細胞の有無を確認する検査を行います。がんと確定した場合は、「がんの種類(組織型)」と「進行の程度(ステージ)」を調べて、治療方針を決定します。肺がんは組織型により、以下の2種類に分けられます。

  • 非小細胞肺がん(腺がん・扁平上皮がん・大細胞がんなど)
  • 小細胞肺がん
非小細胞肺がんがもっとも多く、特に「腺がん」が増加傾向にあります。
 
治療の進め方
肺がんの進行は「ステージI〜IV」で表され、数字が大きいほど進行した状態です。
手術が可能なのは、ステージI〜IIIBの早期〜中等度進行の肺がんが中心です。標準的な手術方法は、がんを含む肺葉とリンパ節を一緒に取り除く「肺葉切除+リンパ節郭清」です。最近では検査技術の進歩により、2cm以下の小さながんが早期に発見されるケースが増えており、体への負担が少ない「縮小手術(区域切除・部分切除)」も行われるようになっています。
 
治療方針と特徴

当院では、以下のような患者さんの状態に応じた最適な治療を提供しています。

  • 早期がんには縮小手術を積極的に採用し、がんの根治と肺機能の温存を両立
  • 進行がんには抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬などを併用し、治療効果を高める
  • 多くの手術で、ロボット支援手術や単孔式胸腔鏡手術など、体にやさしい低侵襲手術を実施
手術前後には、がんの進行や再発リスクを抑えるために「周術期治療」を行うこともあり、当院ではこれまで多くの実績を重ねています。
 
肺がんは、早期に見つかれば治癒が期待できる病気です。進行していても、治療によってがんの進行を抑えたり、症状を和らげることも可能です。気になる症状がある方や、健診で異常を指摘された方は、どうぞお早めにご相談ください。
当科は、呼吸器内科・放射線治療科と連携し、患者さん一人一人に合わせた最適な治療を提供しています。
縦隔腫瘍
「縦隔(じゅうかく)」とは、左右の肺の間にある空間で、心臓や大きな血管、気管、食道、神経など、重要な臓器が集中している場所です。この縦隔にできる腫瘍を「縦隔腫瘍」と呼びます。代表的なものには、以下のような種類があります。
  • 胸腺腫
  • 胸腺がん
  • 胸腺のう胞(嚢胞)
  • 胚細胞性腫瘍
  • 神経に由来する腫瘍 など
症状と診断について

縦隔腫瘍は初期には症状が出にくいため、健康診断や他の病気の検査中に偶然見つかることも少なくありません。
ただし、腫瘍が大きくなると、次のような症状が現れることがあります。

  • 胸の痛み
  • せき・息切れ
  • 声のかすれ
  • 食べ物が飲み込みにくい
  • 顔や首のむくみ など
診断にはCT、MRI、PETなどの画像検査で腫瘍の位置や広がりを調べ、必要に応じて生検(組織検査)を行って、腫瘍の性質を詳しく調べます。
 
治療方法について
治療は腫瘍の種類や大きさ、広がりによって異なります。たとえば胸腺腫の場合は手術が第一選択です。当院では、患者さんの体にやさしいロボット支援手術(ダビンチ手術)を積極的に導入しています。特に腫瘍が周囲の臓器に浸潤していない場合には、安全で確実な切除が可能です。また、腫瘍が大きく血管や他の臓器に接している場合には、手術に加えて抗がん剤や放射線治療を組み合わせた「集学的治療」で対応し、よりよい治療効果を目指します。
 
縦隔腫瘍は決して珍しい病気ではなく、早期発見と適切な治療によって回復が期待できる病気です。当院では、呼吸器外科をはじめ、呼吸器内科、放射線治療科など各分野の専門医が連携し、患者さん一人一人に最も合った治療をチームでご提案しています。検査で影があると言われた方や、気になる症状のある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
転移性肺腫瘍
肺は、血液やリンパの流れが集まりやすい場所のため、他の臓器でできた「がん」が転移してくることが多い臓器です。このように、他の場所から肺に広がってきたがんを「転移性肺腫瘍」と呼びます。たとえば、以下のようながんが肺に転移することがあります。
  • 大腸がん
  • 乳がん
  • 腎臓がん
  • 子宮がん など
なお、肺に最初にできたがんは「原発性肺がん」といい、転移性肺腫瘍とは区別されます。
症状と発見のタイミング

転移性肺腫瘍は、初期には自覚症状がないことも多く、もとのがんの経過観察中や健康診断で受けた胸部レントゲンやCT検査で偶然見つかることがあります。進行すると、以下のような症状が現れることがあります。

  • せき
  • 息切れ
  • 胸の痛み
  • 血の混じったたん(血痰)
 
治療について
治療方針や見通し(予後)は、「もとのがんがどの臓器から来たか」によって大きく異なります。もとのがん(原発巣)がしっかりと治療されてコントロールされている場合には、肺に転移したがんに対して手術による切除が有効な選択肢になることもあります。当院では、患者さんの体への負担が少ない単孔式胸腔鏡手術などのからだにやさしい低侵襲手術を積極的に行っています。また、手で触れないほど小さながんに対しては、手術中にCTを撮影し、がんの正確な位置を確認してから安全に切除しています。
 
転移性肺腫瘍の治療では、がんの性質や全身の状態など、総合的な判断がとても重要です。当院では、呼吸器外科とがん治療に関わる各診療科が連携した「チーム医療」を行い、患者さん一人一人に最も適した治療をご提案しています。肺に影があると言われた方、がんの転移が心配な方も、どうぞお気軽にご相談ください。
気胸
気胸とは、本来空気が入らないはずの胸の中(胸腔)に空気が入り込み、肺がしぼんでしまう病気です。
肺はふだん、風船のように胸の中でふくらんで呼吸を助けていますが、肺に穴が開くと空気が漏れ出し、肺が十分に広がらなくなります。この状態になると、以下のような症状が現れることがあります。
  • 急な胸の痛み
  • 息苦しさ
  • 呼吸が浅くなる感じ
ただし、軽い場合は自覚症状がほとんどなく、健康診断の胸部レントゲンなどで偶然見つかることもあります。
気胸の種類
  • 原発性自然気胸
    肺に特別な病気がない方に起こり、特に10代後半〜20代前半のやせ型の男性に多くみられます。肺の表面にできた小さな袋状のふくらみ(ブラ、肺嚢胞)が破れることで起こります。
  • 続発性自然気胸
    肺気腫や間質性肺炎などのもともと肺に病気がある方に起こります。高齢者に多いのが特徴です。
 
治療方法
症状の程度や肺のしぼみ具合、基礎疾患の有無などを考慮し、以下の方法から最適な治療を選びます。
  1. 安静にして自然治癒を待つ
  2. 胸に細い針を刺して空気を抜く(穿刺脱気)
  3. 胸にチューブを入れて空気を抜き続ける(胸腔ドレナージ)
  4. 手術による治療
 
空気漏れがなかなか止まらない場合や、気胸を繰り返している場合、CT検査で大きな「ブラ」が確認される場合などに手術をお勧めしています。当科では、ほとんどの手術を体にやさしい胸腔鏡手術(VATS)で行っており、傷も小さく、回復も早いのが特徴です。また、全身麻酔が難しい患者さんには局所麻酔による処置や、気管支鏡による治療など、患者さん一人一人に合わせた柔軟な対応を行っています。
膿胸
膿胸とは、通常は無菌であるはずの胸の中(胸腔)に、細菌感染などが原因で「うみ(膿)」がたまってしまう病気です。肺のまわりに細菌が入り込み、炎症が起きることで膿がたまり、肺が圧迫されて呼吸がしづらくなります。主な症状には、以下のようなものがあります。
  • 発熱
  • 胸の痛み
  • 食欲の低下
  • 全身のだるさ(倦怠感)
  • 息苦しさ(病状が進むと特に強くなります)
診断のための検査

膿胸が疑われる場合には、次のような検査を行います。

  1. 胸部レントゲンやCT検査
    膿のたまり方や広がり、量、肺の状態などを詳しく調べます。
  2. 胸水検査
    胸に針を刺してうみの一部を採取し、その性状や原因となっている細菌の種類を調べます。
  3. 血液検査
    体内の炎症の程度や、全身の状態を確認します。
 
治療について
まずは、感染の原因となっている細菌に対して抗菌薬(抗生物質)を使って治療します。ただし、薬だけでは改善しないケースが多く、たまった膿を外に出す処置が必要になります。そのため、「ドレーン」と呼ばれる管を胸の中に挿入し、体の外へ膿を排出する処置を行います。薬やドレーンだけでは治療が難しいと判断される場合には、手術によって膿を取り除く手術を行います。
 
膿胸は、治療が遅れると命にかかわる可能性もある重大な病気ですが、早期に適切な治療を受ければ回復が見込めます。肺炎が治ったあとに発熱が続いたり、胸の痛みや息苦しさが長引くような症状がある場合は、決して放置せず、できるだけ早くご相談ください。当院では、呼吸器内科と呼吸器外科がチームで連携し、それぞれの専門性を生かした最適な治療をご提案しています。患者さん一人一人の状態に合わせて丁寧に対応しておりますので、どうぞ安心してご相談ください。
胸膜中皮腫
胸膜中皮腫は、胸壁と肺を包んでいる「胸膜(きょうまく)」という薄い膜にできるがんの一種です。発症はまれですが、進行が早く、治療が難しいとされており、専門的な診断と治療が必要な病気です。この病気の主な原因は、かつて建材や断熱材に広く使われていたアスベスト(石綿)という物質です。アスベストを吸い込んでから20〜40年ほどたってから発症することが多く、建設業や工場などに関わっていた方や、その周囲の方にも注意が必要です。現在はアスベストの使用は禁止されていますが、古い建物の解体時などにはばく露(ばくろ)のリスクが残っているため注意が必要です。
症状について

初期には症状が出にくいこともありますが、進行とともに以下のような症状が現れることがあります。

  • 胸の痛み
  • 息苦しさ(呼吸困難)
  • せき
  • 体重減少・だるさ(倦怠感)
病気が進むと、胸に水がたまって肺が圧迫され、呼吸がさらに苦しくなることもあります。  
 
診断と治療

診断には以下のような検査を行います。

  • 胸部CTやPET検査
  • 胸水検査(胸にたまった水を採取し、調べる検査)
  • 胸膜生検(胸膜組織を採取して調べる検査)

最終的な診断には胸膜生検が必要になることが多く、当院では局所麻酔または全身麻酔で迅速に実施しています。
治療方法は、次のような選択肢があります。

  • 抗がん剤による薬物療法
  • 免疫チェックポイント阻害薬
  • 手術
  • 放射線治療
患者さんのがんの種類や進行度、体力などに応じて、最適な治療法をご提案します。
手術が適応となるのは、比較的早期かつ「上皮型」のがんの場合です。手術は腫瘍を含む胸膜の全切除と片方の肺を摘出する「胸膜肺全摘術」と、肺を残して腫瘍とすべての胸膜を取り除く「胸膜切除/肺剥皮術(P/D)」の2通りがあります。当院では、「胸膜切除/肺剥皮術(P/D)」を第一選択とし、根治性を保ちつつ患者さんの生活の質を大切にした治療を行っています。
 
胸膜中皮腫はまれな病気ではありますが、専門の医師による早期発見と治療が非常に重要です。
過去にアスベストに関わる仕事をされた方、胸の痛みや息苦しさなどの症状が続いている方は、早めの受診をお勧めします。当院では、呼吸器内科・呼吸器外科・放射線治療科の専門医がチームを組み、患者さん一人一人に合った治療をご提供しています。安心して治療を受けていただける体制を整えておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。
感染性肺疾患
肺には、さまざまな感染症が起こることがあります。代表的なものに、
  • アスペルギルス症などの「肺真菌症(はいしんきんしょう)」
  • 非結核性抗酸菌症(ひけっかくせいこうさんきんしょう)
  • 肺膿瘍(はいのうよう)など
があります。これらの病気は、多くの場合、抗菌薬(抗生物質)による治療が基本となりますが、薬が効きにくい場合や、血を吐く(喀血:かっけつ)などの重い症状がある場合には、手術が必要になることもあります。肺膿瘍では、肺に大きな空洞(くうどう)ができたり、胸の中に膿がたまる「膿胸(のうきょう)」を併発した場合、あるいは肺がんとの区別がつきにくいときには、手術による治療が選択されます。
当科では、呼吸器内科と緊密に連携し、最適なタイミングで手術を行えるよう調整しています。手術が必要な場合も、患者さんの状態や病変の範囲を丁寧に評価し、体に負担の少ない安全で効果的な方法を選んで治療しています。
 
感染性の肺の病気は、早期に見つけて適切な治療を行うことで、多くの場合しっかり回復が期待できる病気です。
ただし、体力が低下している方やご高齢の方では、重症化するリスクがあるため、早めの診断と治療がとても重要です。当院では、呼吸器内科と呼吸器外科が連携し、診断から治療まで一貫して対応しています。
咳、痰、息切れ、熱などの症状が長引いている方は、どうぞお気軽にご相談ください。
気管支鏡治療
気管支鏡治療とは、気道を内視鏡で直接観察し、必要に応じて処置や治療を行う方法です。身体への負担が少なく、検査と治療を同時に行えるのが大きな特徴です。当院では、以下のような治療に対応しています。
  1. 気道に入ってしまった異物の除去
  2. 気道が狭くなってしまった部分へのステント挿入
  3. 繰り返す気胸(肺に穴があいて空気が漏れる状態)への気管支充填術
  4. 気道をふさいでいる腫瘍の切除
「ステント」とは、細くなった気道を広げるために使われる筒状の器具で、シリコンや金属でできています。症状や状態に応じて、もっとも適したタイプのステントを選んで治療を行っています。また当院では、一般的な「軟性気管支鏡」だけでなく、より高度な治療に対応できる「硬性気管支鏡」も使用し、専門性の高い治療が可能です。
 
当院には、気管支鏡検査と治療に精通した専門医が多数在籍しており、患者さん一人一人の状態に合わせた、安全で効果的な治療を提供しています。息苦しさ、せき、声のかすれなどの症状が続く方、検査や治療に不安のある方も、お気軽にご相談ください。

外来診療のご案内

呼吸器外科では、月曜日から金曜日まで毎日、新患(初めての方)・再診(通院中の方)の診療を行っています。

初めて受診される方は、予約制となっております。かかりつけの医療機関から、当院地域医療連携室までFAXまたはお電話でご予約ください。
ご予約がない場合でも、当日の診療が可能な場合があります。まずはお電話にてお問い合わせください。
セカンドオピニオンにも積極的に対応しております。お気軽にご相談ください。

概要

当院の呼吸器外科では、専門医資格を持つ医師が複数在籍し、質の高い手術・医療を提供しています。
安全で体への負担が少ない手術を追求し、2018年にロボット支援手術、2020年には単孔式胸腔鏡手術を導入しました。現在では、肺がんなどの手術の約80%をこうした低侵襲手術で行っています。
年間の手術件数は400~450例にのぼり、豊富な経験を持つ医師だけでなく、麻酔科医・看護師・理学療法士・栄養士など、多職種が連携し、チーム一丸となって診療を行っています。術後の合併症を防ぐため、手術前からの呼吸リハビリや栄養管理も徹底しています。
また、高齢の患者さんや持病をお持ちの方にも安全に手術が行えるよう、循環器・脳卒中・内分泌・リハビリテーションの専門科と連携し、合併症対策にも万全の体制を整えています。
特に、喫煙によりCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を合併している方には、治療と呼吸リハビリをセットで実施し、安心して手術を受けていただけるよう努めています。
肺がんが疑われる場合は、気管支鏡検査(EBUS-TBNA・EBUS-GS・EBUS-IFBなど)やPET検査を行い、呼吸器内科・放射線治療科と合同で開催するカンファレンスで患者さん一人一人に最適な治療法を話し合い、決定しています。
  • ステージI・IIの早期肺がんには、まず手術を第一選択とし、単孔式胸腔鏡手術やロボット支援手術を積極的に行っています。
  • 2cm以下の小型で転移のないがんには、肺機能をなるべく温存する「縮小手術(区域切除・部分切除)」を提案しています。
  • ステージII以上の患者さんには、手術後にがんの遺伝子解析結果をふまえた最適な補助療法をご提案しています。
また、周囲の臓器や胸壁、リンパ節に広がった進行肺がんにも、化学療法・放射線治療・手術を組み合わせた集学的治療を行い、よりよい結果を目指しています。
従来であれば片肺をすべて摘出するような手術が必要だった症例でも、気管支形成・血管形成の技術を用いることで、可能な限り肺を残すよう工夫しています。
当院では、気道が腫瘍などで狭くなった場合の気管支鏡治療も積極的に行っています。
硬性気管支鏡を用いて気道を広げ、呼吸状態が改善してから根治的な治療(手術・抗がん剤)へとつなげる対応を行っています。
当院の呼吸器外科は、患者さんの状態に合わせた最善の治療を迅速に提供できる体制を整えています。
受診予約・紹介の手続き等につきましては、地域医療連携室までお気軽にご相談ください。

⼿術⽀援ロボット “ダビンチ” について

当院では、手術支援ロボット「ダビンチ」を用いた低侵襲手術(からだへの負担が少ない手術)を行っています。
この「ダビンチ」はアメリカで開発され、1999年に販売が開始された医療用ロボットで、当院では「ダビンチXiサージカルシステム」を導入しています。

手術を行う医師は、3Dの高精細な映像を見ながら、専用の操作機器を使ってロボットアーム(鉗子)を動かし、より繊細で正確な手術を行います。ロボットの力を借りることで、人の手では難しい細かい動きや安定した操作が可能になり、従来の開胸手術や胸腔鏡手術よりも、さらに安全で体への負担が少ない手術が期待できます。

当科では、ロボット手術に必要な国内の認定資格を取得し、2018年9月より本格的にダビンチ手術を開始しました。

呼吸器外科領域におけるロボット⽀援⼿術の適応疾患

呼吸器外科領域のロボット⽀援⼿術は以下の術式が保険収載されています。

  1. 肺悪性腫瘍⼿術(肺葉切除、区域切除)
  2. 肺切除術(肺葉切除、区域切除)肺良性
  3. 「肺がん」に対するロボット⽀援⼿術
  4. 縦隔悪性腫瘍⼿術
  5. 良性縦隔腫瘍手術
  6. 重症筋無力症
主な対象疾患としては、①原発性肺がん、②肺良性疾患(良性腫瘍、炎症性疾患など)、③胸腺腫、胸腺がんなどの縦隔悪性腫瘍、④神経原性腫瘍などの良性縦隔腫瘍、そして⑤重症筋無力症に対する拡大胸腺摘出術です。
これらの病気に対して、当科ではすべて手術に対応できる体制を整えています。
ただし、患者さんの体の状態や病歴、病気の進行度、他の病気の有無などにより、ロボット手術が適さない場合もあります。そのため、私たちは一人一人の状況をしっかり検討し、ロボット支援手術が最も適していると判断された方に対して、積極的にこの方法を提案しています。
ロボット手術をご希望の方、またご質問のある方は、外来診察時にお気軽に医師へお尋ねください。 
「肺がん」に対するロボット⽀援⼿術
ロボット支援手術は、全身麻酔で行います。胸に1cmほどの小さな切開を5カ所ほど作り、そこから二酸化炭素を胸の中に送り込んで手術を行うスペース(術野)を広げます。その上で、肺の切除やリンパ節の切除(郭清)を行います。
手術は、術者(執刀医)が患者さんから少し離れた場所にある専用の操作台(サージョンコンソール)でロボットアームを操作して行い、患者さんのそばでは2名の医師がサポートにあたります。

ロボット支援手術には、次のような特徴があります。

  • 多関節を持つ器具を使うことで、人の手では難しい角度からも自然な動きで操作ができる
  • 術者の手の動きより器具の動きを小さくする機能(スケーリング機能)により、より繊細な操作が可能
  • 高精細な3D映像で、まるで胸の中に入り込んだような感覚で手術ができる
  • コンピューター制御により、手の震えなどが補正され、安定した操作ができる
これらの利点により、非常に精密で安全性の高い手術が可能になります。胸腔鏡手術と比べると切開の数は少し多くなりますが、一つ一つの傷は小さく、術後の痛みが軽くなる傾向があります。
「縦隔腫瘍」に対するロボット⽀援⼿術
縦隔(心臓や肺の間にあるスペース)にできる腫瘍に対しても、ロボット支援手術を行っています。手術の適応となる病気は、これまでの胸腔鏡手術とほぼ同じですが、特に胸の上の方や心臓の上など、狭い場所にある腫瘍に対しては、ロボットの力が大きなメリットになります。手術は全身麻酔で行い、胸に1cmほどの小さな切開を3〜4カ所ほど作ります。そこから二酸化炭素を胸の中に送り込み、視野を確保しながら腫瘍を切除します。術者は、患者さんから少し離れた場所にある操作台(サージョンコンソール)でロボットを操作し、患者さんのそばでは他の医師がサポートにあたります。切開する位置(傷の場所)は、腫瘍のある部位によって異なりますが、傷は小さく、体への負担を軽くすることができます。

ロボット支援手術にともなう主な合併症について

ロボット支援手術は非常に精密で安全性の高い手術ですが、ほかの外科手術と同様に、まれに合併症が起こることがあります。ここでは、手術中および術後に起こりうる主な合併症についてご説明します。
手術中に起こりうる合併症
  1. 出血
    細かな鉗子操作によって出血をできる限り防ぎますが、万が一大量出血が起きた場合には、すぐに開胸手術へ移行し、止血処置を行います。
  2. 肺や周囲の臓器の損傷
    肺や心臓、血管など大切な臓器を傷つけないよう、モニターの画面を常に注意深く確認しながら操作しています。見えない場所を無理に操作しないなど、十分に配慮しています。
  3. 神経の損傷(横隔神経、迷走神経、反回神経など)
    ロボットは術者の手の感触(触覚)を伝えないため、視覚によって力加減を判断します。術者はこの点を理解した上で、事前に繰り返し訓練を行っています。
  4. 胸壁(胸の骨や筋肉)の損傷
    ロボットアームを動かす際の角度や力加減によっては、肋骨を痛める可能性があります。助手の医師がロボットアームの動きを常に確認し、胸に無理な負荷がかからないよう注意しています。
術後に起こりうる合併症
  1. 傷口の感染、肺炎、肺の空気漏れ(肺瘻)、気管支の穴あき(気管支瘻)、胸の膿(膿胸)、乳び胸、肋間神経痛 など
    いずれも注意深く管理することで、多くは予防・早期対応が可能です。
  2. 心筋梗塞、脳梗塞、肺血栓塞栓症、不整脈 など
    これらは全身麻酔を用いたすべての手術に共通して起こりうる合併症です。重大な合併症であるため、予防に最大限努め、万が一の場合にも迅速に対応できる体制を整えています。
これらの合併症の多くは、ロボット支援手術に特有のものではなく、従来の開胸手術や胸腔鏡手術でも起こりうるものです。当院では、どのような事態にも対応できるよう、開胸への移行準備や必要な機器の備えを常に行っています。
また、術者は手術中のリスクを把握し、出血や損傷時の対応を事前にシミュレーションで学び、訓練を重ねています。ロボット操作の特性(触覚が伝わらない点)も熟知しており、リスクを最小限に抑える努力を重ねています。
なお、ロボットは機械であるため、ごくまれに機器の不具合が起こる可能性もあります。そのような場合にも、臨床工学技士を含めたスタッフ全員が適切に対応できるよう、日頃から訓練を行っています。
  • ロボット支援手術で肺切除術を行う場合の手術創の一例
  • ロボット支援手術で縦隔腫瘍切除術を行う場合の手術創の一例

「単孔式胸腔鏡⼿術」について

これまで一般的に行われてきた胸腔鏡手術は、胸に3〜5カ所の小さな切開(創)を作り、モニターを見ながら行う手術です。開胸手術(胸を大きく開く手術)と比べて体への負担が少ないのが特徴です。
この方法をさらに進化させ、患者さんへの負担をより少なくしたのが、単孔式胸腔鏡手術です。
この手術では、胸に1カ所だけ小さな切開を作り、そこからすべての手術器具を操作します。切開は約3〜4cm程度で、術後の痛みも非常に少なく、早い回復が期待できます。
実際の創の写真を右に掲載しています。傷が小さく目立ちにくいのも、この手術の大きなメリットです。

メリット・デメリット

単孔式胸腔鏡手術は、胸に1カ所だけ小さな切開を作って行う、体にやさしい低侵襲手術です。
この手術のメリットとしては、

  1. 傷が小さいため、痛みが少ない
  2. 回復が早く、入院期間が短くなり、社会復帰が早い
  3. 傷あとが目立ちにくく、見た目にもやさしい(美容的に優れる)
といった点が挙げられます。
一方で、切開が1カ所のみであるため、手術中の操作がやや制限されるというデメリットもあります。
そのため術者には高い技術と経験が求められますが、当センターではトレーニングを積んだ経験豊富な医師が、安心・安全に手術を行っていますので、どうぞご安心ください。

「単孔式胸腔鏡⼿術」ができる疾患

単孔式胸腔鏡手術は、次のような病気に対して行うことができます。
早期の肺がん、自然気胸、胸壁の腫瘍、縦隔腫瘍、膿胸 など
これらの病気に対し、従来の手術よりも体への負担を軽減できる可能性があります。
ただし、患者さん一人一人の病状は異なるため、すべての方に単孔式胸腔鏡手術が適しているとは限りません。当センターでは、安全で確実な手術を行うために、患者さんの病状をしっかりと評価した上で、最適な手術方法を提案しています。
ご希望やご不明な点がありましたら、どうぞお気軽に外来担当医にご相談ください。

医師紹介

胸部外科教育施設協議会