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聖隷の“旬”を届ける「i am…」

聖隷浜松病院 管理栄養士


冨田 加奈恵

聖隷浜松病院のとある病室。様々な制服に身を包んだ医療者たちが一人の患者を交えて会話をしている。ある者は患者との会話から改善の糸口を見つけ出す。ある者は真剣にメモをとる。またある者は過去の記録と比較をしながら相談をしあう。彼らは、聖隷浜松病院で2000年に発足した栄養サポートチーム、通称NST。医師・看護師・管理栄養士・薬剤師・臨床検査技師などの多職種で構成され、入院患者の状態を栄養の視点から分析するスペシャリスト集団。そのチームの一員として活動する管理栄養士、冨田加奈恵。「食事」で治療をサポートする冨田の足跡を追う。

i am「冨田 加奈恵」

母が教えてくれた「食べる理由」

2歳の時に姉たち

2歳の時に姉たちと。
今でも仲良し三姉妹だ。

「ねえねえ。りんごがダイエットにいいってテレビでやってたよ!」「まじで!じゃあ、買いにいかなきゃ!」。中学生の冨田は友人と競い合うようにダイエットに没頭していた。過度な運動や食事制限をする者もいた。友人がダイエットに成功したと聞くたびに自分も痩せなくてはと焦った。
給食では野菜と果物だけを食べ、自宅では野菜だけを食べる。本来は食べることが好きなのに、無理な食事制限で痩せようとしている冨田を見るに見かねた母は、ある日こう言った。「お米は脳の栄養に、お肉に含まれるたんぱく質は筋肉をつくるの。食品には栄養というものが含まれていてね。どれか一つが偏っていても体は壊れてしまうのよ」。まだ中学生だった冨田は、母がダイエットを止めさせるために嘘をついていると疑い、なぜそんなことを知っているのかと問うた。冨田はその時まで知らなかったが、専業主婦の母は栄養士の資格をもっていたのだ。「食べる理由」を教えてくれた母の言葉にはとても説得力があった。母の助言に従い、バランスのよい食事をとり、運動もするようになった冨田は、自分が納得できる健康的なスタイルになった。着たい服が着れるようになって心の底から嬉しくて楽しかった。
これが冨田と栄養士という職との出逢いであった。

管理栄養士の卵だからこだわること

母と北海道旅行へ。

母と北海道旅行へ。
この頃から旅行が大好きだった。
(高校時)

管理栄養士(※1)を目指して関西地方の大学に入学し、3年生になると就職活動が始まった。就職先には生まれ育った浜松市の聖隷福祉事業団(以下、聖隷)を希望した。聖隷は保健・医療・福祉・介護サービスと多岐に渡る事業を展開しており、施設も全国各地にあるため、多種多様な経験ができそうなのが魅力的だった。それから、大学がある関西地方ではなく浜松市を希望したのは、管理栄養士を目指す冨田ならではの理由があった。
それは食文化。

管理栄養士の仕事の一つである栄養指導は、単なる栄養の説明ではない。どうしたら相手により良い食事を食べてもらえるかを提案する。中でも味付けや食べ合わせは重要な要素。浜松市と関西地方では、だしの風味も異なれば、味付けがしょうゆかソースかも異なる。基本的な食習慣が異なるのだ。栄養指導は相手の基本的な食習慣を踏まえて行うのだが、関西の食文化を冨田の体に染み込ませ、理解させるには4年間の大学生活では足りなかった。だからなじみがある浜松の食文化の中で管理栄養士として働くことを希望したのであった。

大学を卒業し、国家資格の管理栄養士を取得した冨田は、聖隷に入職して聖隷浜松病院へ配属された。

目からうろこがおちた新人時代

自身の結婚式

自身の結婚式で。夫は仕事に励む冨田を尊重し支えてくれる良きパートナー。

2004年、病院管理栄養士となった冨田は厨房で医療現場での調理を学んだ。病棟での栄養指導と事務だけと思っていた冨田は驚いた。
病院で提供する食事は嚥下食(えんげしょく)(※2)や治療食など様々な食形態や制限がある。だが、大学を卒業したばかりの冨田はそれらに接する機会がほとんどなかった。数ある病院の中には委託会社に食事を任せているところもある。しかし聖隷浜松病院は病院スタッフが調理し、食事を提供しているため、冨田は実際に厨房で先輩たちから直々に調理方法を学ぶことができた。栄養指導では自宅での調理方法も患者へ指導する。机上の知識だけでは伝えられない活きた指導ができるし、自分たちが作ることで患者の食事に直接関われるという気持ちもより強くなった。
食事に関わる職員は1回に数百もの食事を作るわけだが、彼らは次の言葉を心に刻んでいる。「数百ある盛り付けの一食も、患者さんにとっては心待ちにしている一食。だから患者さんの気持ちになって丁寧に盛り付ける」と。

病院管理栄養士としての基盤を整えた冨田は、次のステップである栄養管理業務に進んだ。一ヵ月で独り立ちすることを目指し、先輩の背中を見ながらがむしゃらについていった。患者への接し方、食事療法の目標の立て方、先輩の指導する様子を見て分からないことがあれば指導後に納得するまで質問をした。

食事で治療に貢献する管理栄養士

1度に約500食もの食事を調理している聖隷浜松病院の巨大厨房。

1度に約500食もの食事を調理している聖隷浜松病院の巨大厨房。

管理栄養士の仕事に慣れてきた入職8年目の頃、冨田は一人の糖尿病患者と出会った。その患者は状態が良くなく、かかりつけ医から紹介をされて栄養指導を受けるために通院していた。菓子パンが大好きで毎食後に食べていた。自身の状態が良くないのは承知している。でもどうしていいか分からず悩んでいた。

砂糖たっぷりの菓子パンを止めなければならないのは一目瞭然。しかし冨田は、まず患者の生活習慣や悩み事をありったけ話してもらった。そして血糖値の上下が糖尿病に及ぼす影響など、病気の基礎知識を丁寧に説明した。自身を受入れてもらい、それに基づいた指導を受けたその患者は、納得して生活習慣を変えることに挑戦できた。結果、体調が好転したことで更にやる気が出て好循環にのることができた。適切な栄養摂取で5kgの減量に成功し、血糖値コントロールもできるようになって、患者はかかりつけ医の元へと戻っていった。
しかし、そんな冨田も過去に苦い経験をしている。患者の気持ちやバックグラウンドを聞き出さずに「押しつけ」の指導をして、患者のやる気を失わせてしまったことがあった。思い返せば、その時の患者は腑に落ちない表情をしていたのだった。     

栄養指導の開始時に関わり方を誤ると患者はついてきてくれない。食べることが好きな冨田だからこそ、好きな食べ物を制限する辛さを分かち合い、患者に寄り添い導くのが大切だと気付いた。
100人の患者がいれば100通りの食生活がある。

ホスピスへ転院予定の終末期患者には、できる限り食べたいものを提供し、嚥下が困難な刺身好きの患者には退院前指導でネギトロなら飲み込みやすいと提案し、体に良いと聞いた食べ物を何から何まで食べる患者には栄養バランスの大切さを説く。
患者に寄り添い、納得してもらい、やる気を出してもらって二人三脚で「食べる」ことに取り組んでいくのだ。

本当は「作る」より「食べる」が好き

2017年の夏に訪れた富山県の黒部ダム。

2017年の夏に訪れた富山県の黒部ダム。この時にはイワナを堪能した。

病院では毎日数百もの食事を一人ひとりの状態に合わせ、形態や味付けを微妙に変えて提供している。料理の腕も磨いたが、実は冨田はそれ以上に食べることが大好きだ。「栗の季節には両手ぐらい大きなモンブランを食べに岐阜県へ」「佐賀県の呼子朝市で食べたイカは新鮮で、コリコリッとした食感が格別だったわ」「台湾で食べるマンゴーは種類が豊富だし、ライチは皮をむくとピュッと果汁が飛び出るくらいジューシー」。食を求めて東へ西へと出かける冨田。「食」は、公私ともに冨田にとって生活の中心にあるのだ。家族や友達と各地を巡るうち、日本国内制覇まであと6県となった。

好きな「食」を楽しむ一方、足りない栄養は一日トータルで補えるよう自分で配分できるのが管理栄養士のいいところだ。体調を整え、健康でいるからこそ、食の探求にも仕事にも全力で取り組める。冨田の健康の秘訣だ。

栄養、看護、薬剤…あらゆる分野から患者の栄養状態にアプローチ

様々な分野の食事に関するスペシャリストが集結するNSTの回診

様々な分野の食事に関するスペシャリストが集結するNSTの回診。

病院の管理栄養士の仕事の一つに、NST (※3) がある。
NSTは、栄養不足の患者に対し、栄養補給方法の提案や病気の回復・合併症の予防に効く栄養管理方法の提案などを行う。冨田は先日も、最近食べられていないという入院患者を担当した。まずは管理栄養士である冨田が単独で病室を訪問。患者の担当看護師や患者自身に聞き込みを行い、集めた情報をNST内で共有。

その後全員での回診がスタートする。各専門職が実際の患者の顔色や血圧、点滴、食事内容、噛み合わせなどを確認し、得た情報を冨田が細かく記録。回診後のカンファレンスでは、食べられない理由について、薬剤師から「服用中の薬のせいで食欲不振になっているのでは」と飲み薬変更の提案、言語聴覚士から「飲み込みの体勢が悪いのでは」と食事を取る時の体位変更の提案があった。この時冨田は、栄養状態は食事内容だけでなく様々な要因が絡み合うため、身体全体をみることが鍵になるのだと実感した。2016年に取得したNST専門療法士(※4)としての知識は、栄養、薬剤、看護、病気の症状など多岐に渡る。患者の病状や服薬内容を踏まえた話ができるようになり、他職種との連携も深まった。「あらゆる角度からアプローチし、栄養不足による病気回復の遅れや合併症、筋肉量減少により日常生活動作ができなくなる患者さんを一人でも減らしたい」と冨田は言う。

患者が目指すゴールに向かって

課長の伊藤(左前)をリーダーに、総勢59名で患者の食事に貢献する聖隷浜松病院栄養課。

課長の伊藤(左前)をリーダーに、総勢59名で患者の食事に貢献する聖隷浜松病院栄養課

冨田はこれまで糖尿病患者に関わることが多く、「食べたいけど食べられない」患者を何人も見てきた。合併症として糖尿病性腎症になる人も多いため、腎臓病療養指導士の資格を2018年に取得。今度は摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の取得を目指し、高齢者から需要が高い嚥下食にも理解を深めようと勉強中だ。「幅広い知識を持つことで食のプロとしての専門性を磨き、よりよい食生活の手立てを患者さんと一緒に考えたい」。管理栄養士になってから、冨田は日々机に向かっている。

「〇〇は体脂肪を燃やしてくれます!」「ご長寿の人が毎日食べているのはこれ!」。昔も今も、テレビの健康番組がお茶の間をにぎわせている。報道されている食品に良い効能があるのも確かだが、「体にいいから」と食べ過ぎてしまってはかえって体に良くない。病院の管理栄養士として正しい知識を伝え、予防や治療につなげたい。「日々の生活で実践するかは患者さん次第だからこそ、やってみようと思ってもらうことが大事。その人の視点に立ち、本人の気持ちに寄り添って食の大切さを伝えていきたい」と冨田は言う。「着たい服が着られるようになりたい」「いくつになっても自分の足で歩きたい」。その人が目指すゴールへの道筋を、冨田は探求し続ける。近い未来、きっとたどり着けるように。
※1 管理栄養士・・・栄養士の免許を有し、厚生労働大臣の免許を受けた国家資格

※2 嚥下食・・・飲み込みや咀嚼といった嚥下機能の低下がみられる場合に、嚥下機能のレベルに合わせて、飲み込みやすいように形態やとろみ、食塊のまとまりやすさなどを調整した食事のこと(公益財団法人長寿科学振興財団ホームページより)

※3 NST(エヌエスティー)・・・Nutrition Support Team=栄養サポートチームの略。NSTとは、患者に最適な栄養管理を行うために、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、理学療法士、言語聴覚士、歯科医師、歯科衛生士などで構成された医療チームのこと。それぞれの専門分野の知識や技術を持ち寄り、その患者にとって最適な栄養療養を考え、実践していく。

※4 NST専門療法士・・・患者に最適な栄養療法を行うための栄養サポートチームの一員として、優秀な人材を育成するために作られた資格。看護、薬剤、栄養など多岐に渡る知識が必要。

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聖隷浜松病院 施設概要

所在地 〒430-8558
静岡県浜松市中区住吉2-12-12
電話番号 053-474-2222
FAX 053-471-6050
開設日 1962年3月5日
定員・定床数 750床
施設種別
  • 医療施設
  • 助産施設
ホームページ こちらをご覧ください
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聖隷浜松病院

1日の外来患者数1,562名。手術件数10,437件。救急車受入れ7,167件。(2018年度実績)
「私たちは利用してくださる方ひとりひとりのために最善を尽くすことに誇りをもつ」を病院理念に地域に貢献する聖隷浜松病院。

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「温かい食事は温かく、冷たい食事は冷たく」ベッドサイドへ届けることを実現。病院の食事のイメージを覆した「再加熱カート」。

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