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「認知能力と非認知能力」

人間の能力は「認知能力」と「非認知能力」と言われるのがあります。
「認知能力」とは一般的には知能検査で測定できる能力のことを言い、「非認知能力」とは主に意欲、自信、忍耐、自立、自制、協調、共感などの私たちの心の部分である能力のことを言います。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、アメリカのシカゴ大学の経済学者であり2000年にノーベル経済学賞を受賞し、『幼児教育の経済学』の著者のジェームズヘックマン氏は、『子育てや保育などを含めた教育への投資効果は経済学的に効果的な時期はいつか』の研究を行った結果、就学前の乳幼児時期における教育が最も効果的だと述べています。
その根拠のひとつである「ペリー就学前教育」です。<6月号の園だよりにも書きましたが>
簡単に説明しますと、アメリカでアフリカ系の貧困層の子どもたちをランダムに選出し、2つのグループに分け、1962年から1967年に①一方は教育プログラムに沿ってきちんと教育を受け、②もう一方は何もしないで過ごし、40年間追跡調査をした結果、①のグループは高校卒業、収入、持ち家、健康であるなどの割合が高く、犯罪率、生活保護受給率などは低く、②のグループはその反対に逮捕、未就労、生活保護受給、不健康状態などの割合などが高かったとのことです。その他にも1972年からはじめたアベセダリアンプロジェクトも同じように、経済的に恵まれない子どもをランダムに抽出し、就学前にチャイルドケアセンターで質の高い教育をうけた子と受けなかった子どもの追跡調査でもペリー就学前の追跡調査の結果と同じような結果が得られたのです。
この調査研究結果は「教育を受けたからIQも高くなり、学歴なども高く、収入も得られたのではなく(IQはある年齢になると教育を受けた子も受けなかった子もそんなに差は無くなったとのことです)、幼少期の介入で先に述べた非認知能力である意欲、自信、忍耐や協調性、共感性が育つことによって得られた結果が、学習意欲や社会性が育ち、学歴が高く、成績の良い子どもが多いことにつながった。幼児期にきちんとした教育を受けることは最も経済的な効果が得られる」としています。
では非認知能力を育てるのは、幼児期ではなく思春期でも良いかというと、経済的効率性からはヘックマンは「正当化するのは困難であり、一般的には経済的収益率は低い」と言います。
 非認知能力の意欲や自信、自立心、自制心、協調性や共感性などはどうすれば育つのでしょうか?
乳幼児期の親や大人の関わりの中で、「人って信じて良いのだな。自分は愛されているんだな」という自分と他者に対する基本的な信頼感がベースになって徐々に「非認知」的な心の性質が積みあがっていくのだと遠藤俊彦氏(東京大学大学院 教育学 研究科教授)は述べています。
 私たち親や大人は、ともすると目に見える認知能力(IQ)を高めることに関心が向きがちですが、ヘックマンによって経済的な視点からではありますが幼児教育で必要なものは何かを改めて示されたように思います。
聖隷の保育教育の理念のひとつ「愛されて愛することを知り、お互いが大切な存在であることを知る」は非認知能力を育む基礎になっていることにつながっていることを確認した次第です。