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病気の世界【シリーズ(連載)】

“病気”の現実を提示し、一人でも多くの方に疾患の真相を知って頂きたく、シリーズで短編の掲示板を掲げさせて戴きます。



はじめに

聖隷佐倉市民病院ホームページの病理科サイトにようこそ !

  本病院の病理科は病気の原因、経過、予後を含めた疾患の真の姿を解剖や組織検査によって解明する部門です。そこで、此処では”病気”の現実を提示し、一人でも多くの方に疾患の真相を知って戴きたく、HP内にシリーズで短編の掲示板を 掲げさせて戴きます。関心のある方はご覧戴ければ幸甚です。

第2章 消化管: 口から肛門まで

A 消化管について



B 口腔      1) 咀嚼

ここには食塊を破砕して攪拌する1) 咀嚼機能, 2) 唾液分泌に加えて、3) 侵入異物を処理しやすくするいわゆる免疫機構がインストールされている。特に3) は後に述べるように"造血器官の濫觴の地"として特筆される。
 1) 咀嚼: 歯牙と舌の巧妙な協同作業は草食から肉食動物を含む多様な動物の形態進化を辿るのみならず、これを動かす脳神経最大の三叉神経[脚注1]支配の咬筋の強力な発達と対を成している。ここには食欲の快不快のセンサーとなる味覚[脚注2]が付属している。

[脚注1]   顔面知覚と運動機能を合わせ持つ混合神経
[脚注2]   舌の前2/3は顔面神経、後ろ1/3は舌咽神経支配



B 口腔      2) 化学的消化: 唾液腺

2) 化学的消化: 口腔粘膜には内面湿潤用の粘液分泌を加味した無数の小唾液腺が一面に敷き詰められ, 1.2L/日の唾液を分泌している。主として炭水化物分解酵素(アミラーゼ)であるが、主体は耳下腺と顎下腺と舌下腺である(図)。



B 口腔      3) リンパ組織

3) 免疫機構としてのリンパ組織: 咽頭ー食道への入口部には周囲にリング状にリンパ組織が配列し、ワルダイエル輪と呼ばれる。その最大のものは扁桃であるが、その特徴は上皮の褶曲化と直下間質での胚中心の発達したリンバ球組織の集簇である。ここは異物と判定された進入物質への免疫応答性を逐一checkして、体内に入った際にマクロファージ[脚注3]に消化されやすくする門前チェック機構でもある。免疫の進化のルーツはここにある。

[脚注3]   異物を消化する最も基本的な形は侵入物質に対する間葉系細胞の貪食融解である。避腸的に進入した異物に対する多種多様な炎症細胞誘導の姿を、より低い進化体制の段階へと辿って、この基本像に行き着いたメチニコフの観察はノーベル賞に輝いた。


C 食道

抗伸展性の強い扁平上皮に内覆された成人では25cmの管であるが、これは第6弓の神経支配が物語るように、同域の肺の発生に伴う横隔膜下降に伴い咀嚼後区間の咽頭と胃を結ぶ管の受動的伸展の結果である。性状的に咽頭の延長であることは、咽頭癌と食道癌の合併率の異常な高さから首肯される。



D 胃

嚥下された咀嚼塊の最初の1) 貯留所とも言われるが、2) 食塊攪拌に加えて、更にここでは3) 強力な胃液中の塩酸作用の下で蛋白質分解(ペプシノーゲン)が行われる。その胃液量は2L/日に及ぶ。この蛋白質分解に特化した胃粘膜胃腺の構造上の特徴は体底部での異常なマット状発達に伺える。壁構制は粘膜、粘膜下組織、収縮を担う内層輪状成分と管短縮を担う外層縦走成分が直交する固有筋層、漿膜下層の5層よりなる。他粘膜に類を見ないピロリ菌感染を含む多様な粘膜傷害と、その加齢性ないし自己免疫傷害性の固有胃腺の衰退と発癌促進は夙に話題にされている。


胃壁の加齢変化の特性は
陰窩上皮の加齢増強、2) 固有胃腺の加齢減退,
3) 粘膜筋板の加齢増強、4) 体部内輪筋と幽門管
外縦筋の高齢増強である。

D 胃      胃壁と胃サイズの加齢変化



E 十二指腸



F 腸

小腸は1) 十二指腸、2) 空腸、3) 回腸におおまかに三区分され, 3L/ 日の腸液を分泌している。


1) 十二指腸: 胃幽門管との境には収縮輪がよく発達して、括約機能が付与されている。その弛緩によって流入した消化物は先ず球部に集まるが、漸次下流に押し出されて今度は平均φ5mmの共通口(Vater乳頭口)から注ぐ2種の消化液―胆汁と膵液―に混ぜ合わされる。前者は胆汁の表面活性剤作用による脂質の溶解、後者は炭水化物をアミラーゼ、蛋白質をプロテアーゼ, 脂質をリパーゼ作用により分解し、その後の圧倒的に広い小腸区間表面積での効率的粘膜吸収を補助する。すなわちここには肝臓からの0.7L/日の胆汁分泌と、最大消化腺といわれる膵臓からの1.2L/日の膵液が分泌され、複合的化学消化の総仕上げの場となっている。

2) 空腸: 輪状並列した高い粘膜ヒダの顕著に発達した区間で、エンテロキナーゼを含む腸腺液を加えて、一斉に吸収される状況が見て取れる。「空腸」なる訳語も、解剖で何時観察しても内容がない、空っぽ(leer)であるドイツ語のLeerdarmに由来する。そしてこの区間には腫瘍を始めとする病変が極めて生じ難い事でも有名である。

3) 回腸: 空腸に比して細く、ヒダも低く、輪状並列性も一段と劣る区間であるが、日光の"いろは坂"型の管褶曲と粘膜下のリンパ組織の集約的発達(パイエル板の発達など)は空腸での吸収残渣物に対する、扁桃で観た異物処理型とは異にする2次吸収機能区間の可能性が高い。この事実は炎症性腸疾患の好発部位として、回腸末端ほど頻度の高いことからも首肯される。


大腸: "糞袋”と称されて小腸とは役割を異にする大腸は周囲に荷造りの結縄の如く縦走する3条の筋層の存在から"結腸"の別名を有する。機能的には上位区間で分泌された8 L/日 に及ぶ消化液の再吸収(最終的には水分150mlを糞塊と共に排出)と食塊の吸収残渣物の糞塊形成に当たる。ここは消化腺は存在せず、専ら多種の共生腸内細菌の支援を受ける腐敗まがいの残渣物処理の世界である。ここでは蠕動による内容移動に加えて、攪拌や揉み込みなど多様なneuro-enteral 機構を発動しての糞塊生成過程を担う。

腸管系の誕生から壮年期、高齢者に至る加齢動向は図の如くで、その特徴を摘記すると1) 壮年期の長さと粘膜量の短縮、2) 高齢漸減、3) 粘膜量/筋量比の減衰、4) 内輪筋の相対的増強である。

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