心臓血管外科・血管外科

メッセージ

当院は静岡県西部地区のドクターヘリ基地であり高度救命救急センターです。そこで重症心血管疾患に対応できるよう、2006年に当科が開設されました。当院の使命を果たすため、急性大動脈解離や大動脈瘤破裂といった緊急疾患に可能な限り迅速に対応できるようにしています。同時に地域医療への貢献も重視しています。当院の医療圏は交通の便が非常に悪く、ご高齢の患者さんでも車なしで生活できない方がたくさんいるため、早期にADLが回復し、社会生活に復帰できるよう低侵襲手術にも取り組んでおり、地域のニーズに合う心臓血管外科を目指しています。
心臓血管外科 兼 血管外科 部長
浅野 満

主な対象疾患

  • 大動脈弁疾患、大動脈疾患
  • 僧帽弁疾患
  • 虚血性心疾患
  • 末梢血管に対する治療
  • 脈管(動脈・静脈・リンパ)疾患

専門的な治療・活動の紹介

大動脈弁疾患に対する外科治療

当科では、大動脈弁狭窄症に対する治療として標準的(外科的)大動脈弁置換術(SAVR)、低侵襲(小切開)大動脈弁置換術(MICS AVR)、経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)を施行しています。この中から患者さんの年齢や生活状況、またご本人の希望を考慮し最も適した治療を提供しています。
大動脈弁閉鎖不全症に対する治療としてはSAVRやMICS AVRを施行しており、年齢、病態など考慮し、有益と考えられた場合には大動脈弁形成術や大動脈弁温存基部置換術(大動脈基部病変を合併している場合)を施行しています。

僧帽弁疾患に対する外科治療

僧帽弁閉鎖不全症に対しては僧帽弁形成術を標準術式としております。MAZE手術や三尖弁輪形成術を併施する場合、胸骨正中切開を標準としております。僧帽弁単独手術(左心耳閉鎖も含む)では右小開胸による低侵襲心臓手術(MICS)での僧帽弁形成術を積極的に行っています。MICSは10cm弱の小開胸による心臓手術で術後の回復が早く、胸骨正中切開で生じる上肢の運動制限や生活の制限を避けられるため有用と考えております。
その他、僧帽弁狭窄症に対しては乳頭筋温存僧帽弁置換術を施行しており、僧帽弁輪石灰化(MAC)を伴った僧帽弁疾患に対する乳頭筋温存僧帽弁置換術は当科で特に力を入れています。

虚血性心疾患に対する外科治療

当科では虚血性心疾患に対する外科治療として冠動脈バイパス術を施行しています。冠動脈バイパス術は心臓を停止させず、人工心肺を用いない心拍動下冠動脈バイパス術を標準術式としており、び慢性冠動脈狭窄病変に対してはonlay patch法を取り入れております。また心室中隔穿孔や乳頭筋断裂に伴う急性僧帽弁閉鎖不全症等の心筋梗塞合併疾患、また虚血性心筋症にも対応しています。

大動脈疾患に対する外科治療

当科では胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術を標準術式としておりますが、ご高齢の方や併存疾患が多い場合にはステントグラフト治療を行っております。
急性大動脈解離に対する人工血管置換術では病態の他、年齢や全身状態によって人工血管による置換範囲を決めますが、70歳未満である場合には弓部大動脈全置換術+オープンステント内挿術を施行しております。
当院はドクターヘリを有する高度救命救急センターであるため、急性大動脈解離については可能な限り受け入れるように心がけております。緊急の受け入れについてはマンパワーの問題が生じる場合がありますが、体制構築も含めて更に地域に貢献できるよう努めております。

末梢血管に対する治療

下肢閉塞性動脈硬化症による末梢動脈の狭窄、閉塞性病変に対しては血管内治療が主流となりつつあります。しかしながら関節可動部の病変に対しては、血管内治療は困難であり、バイパス術や内膜摘除術などの外科的治療を行っております。多発性血管病変や重症下肢虚血症例に対しては血管内治療と外科治療を組み合わせたハイブリッド治療は非常に有効であると考えております。また当院には形成外科やWOC(Wound Ostomy Continence、皮膚排泄看護認定士)と共に重症下肢虚血のフットケアも行っております。
下肢静脈瘤手術は保存的治療から血管内治療まで症状や患者さんの状態によって適切な治療方法を選択しております。

ステントグラフト治療

  • 胸部大動脈ステントグラフト内挿術(Thoracic Endovascular Aneurysm Repair; TEVAR)
    胸部大動脈瘤ステントグラフト留置術(TEVAR)では基本的には、腋窩-腋窩動脈バイパスのみを伴う1-debranching TEVARまでしており、2分枝以上の再建が必要な場合には人工血管置換術を第1選択として考えております。
  • 腹部大動脈ステントグラフト内挿術(Endovascular Aneurysm Repair; EVAR)
    ご高齢の腹部大動脈瘤患者さんに対してはEVARを第一選択としております。2018年からIBEを導入し、両側腸骨動脈瘤併存症例でもより安全にステントグラフト治療が可能となっています。

経カテーテル的大動脈弁留置術(Transcatheter Aortic Valve Implantation; TAVI)

鼠径部からカテーテルを使って人工弁を患者さんの心臓の大動脈弁に植え込む治療法です。低侵襲(開胸、体外循環、心停止がない)のため、患者さんの身体への負担が少なく入院期間も短くすみます。高齢、全身状態不良などの理由で外科的手術が受けられない患者さんに対して新しい選択肢となります。大動脈弁狭窄症に対する適応があり、大動脈弁閉鎖不全症患者さんには適応がありません。また今のところ透析患者さんには適応となっていません。
当院では大動脈弁狭窄症患者さんの治療方針についてはハートチームで話し合い、患者さんの治療適応決定から退院先までを総合的に話し合って決めています。
また、手術前・後でフレイル(身体的・精神的・社会的な機能が低下し、要介護状態になる可能性がある状態)を評価し、患者さんの状況に合わせて可能な限りフレイルが進まないようハートチームで取り組んでいきます。