A.疼痛(1) 持続的な疼痛・内臓の痛み
[※オピオイドの等価換算表はこの中です]
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Overview
痛みの原因が悪性腫瘍であることを確認してください(もともともっている頚椎症や腰椎症、臥床による筋骨格痛のことも多いです)。
NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)・アセトアミノフェンでコントロールできない場合、オピオイドをNSAIDs・アセトアミノフェンと一緒に開始してください。
痛みが落ち着いてきたら、NSAIDsは抜いても問題なければ抜いてみてください。
内臓痛の鎮痛治療のoverview
非オピオイド鎮痛薬
①アセトアミノフェン
NSAIDsよりもアセトアミノフェンの使用を優先するのが基本です。
まれに肝障害を生じます。
NSAIDsだけで効果が弱い場合、NSAIDsに加えてアセトアミノフェン2.4~4.0g 分3~4の併用が良いときがあります
ボルタレン坐薬が良く効くが、腎機能障害などで使用しにくいときには、院内製剤でアセトアミノフェン坐薬(600㎎)があります。科限定処方なので、必要な場合は緩和ケアチームに依頼してください。
静脈ラインのある患者では、アセリオ15mg/kg(上限1回1g)×4回/日を定期投与してください。進行がんの患者さんでは、体重が少ないことが多いので600mg×4などになります。
② NSAIDs
腎機能、消化管出血が許容できるならば、オピオイドと併用してください。
特に、膿瘍・骨転移など炎症性疼痛の場合は、オピオイドより有効な場合が多いです。
処方例 | |
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経口なら | ロキソプロフェン3T・セレコックス(100mg)4T・モービック錠(10mg)1T < ボルタレン錠(25mg)3T |
非経口なら | ロピオン0.5A・生食5~100mL×3 定期+頓用(1日3Aまで) ボルタレン坐薬25~50mg×3 定期+頓用(1日150mgまで) |
セレコックス、モービックは、胃十二指腸潰瘍のリスクが少ないNSAIDsです。
潰瘍予防のため、プロトンポンプ阻害薬の予防投与を推奨します。
抗がん剤のアリムタを使用している場合は、原則として併用禁忌です。
オピオイドの選択
一般的なオピオイド選択方法
オピオイド
必ず頓用指示(疼痛時)を出してください。
全体量が増えたら、それにあわせて、頓用使用量も1日合計量の10~20%(1/6量)に増量してください。
入院時にソセゴンなどの指示が出ていて、指示が残っていることがあるので修正してください。
オピオイド使用時の制吐剤について
オピオイド開始時には制吐剤(ノバミンなど)を定期的に使用することがすすめられてきましたが、最近のエビデンスに基づき根拠が乏しいことから、国内・海外のガイドラインでは「使用してもしなくてもよい」とされています。実践上は、患者さんの状況によって使い分けることになります。
■制吐剤の予防投与が好ましいと思われる患者の特徴:
嘔気嘔吐がすでにある人、過去にあった人、リスクの高い人(消化器がんな ど)、もともと乗り物酔いしやすい人、嘔気があるとコンプライアンスが悪くなる人、制吐剤が増えることは気にしない人
■制吐剤の予防投与はしなくても良いと思われる患者の特徴:
嘔気嘔吐のリスクの少ない人(肺がんなど)、嘔気嘔吐を生じたことがない人・強い人、薬剤が増えることのほうが好まれない人
経静脈・皮下投与では、一般的に制吐剤の予防投与は必要ではありません。
薬剤の選択は、ノバミンが国内では一般的です。エビデンス上は、トラベルミン、プリンぺラン、ドンペリドンなどでも同等かもしれません(比較した研究がほとんどない)。ノバミンでは、アカシジア(落ち着かなくなる)、パーキソニズム(うつ状態、能面様顔貌、運動障害など)に注意が必要です。特にがん患者ではアカシジアはわかりにくいので、不安感、焦燥感、落ち着かない感じを患者が訴えた場合には、制吐剤はドーパミン拮抗作用のないもの(抗ヒスタミン剤)に変更してください。最近はオランザピン2.5mg1Tを使用することも多いです。オランザピンは糖尿病患者には禁忌ですので注意してください。
オピオイドのレスキューだけを開始する場合、オピオイドとノバミン・トラベルミンを同時内服してもいいですが、嘔気が強く出そうな患者さんの場合は制吐剤だけをあらかじめ定期内服しておいてもらうのも経験的にいい方法です(トラベルミン2T分2、オランザピン2.5㎎1Tを定期内服し、疼痛時はオキノームのみを内服、など)
制吐剤の処方例 |
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嘔気嘔吐を予防する一般的な処方 ノバミン3T分3 乗り物酔いしやすい人、パーキソニズムを生じやすい人(一般的な処方として使用してもよい) トラベルミン3T分3 眠気を生じたくない場合 ドンペリドン3T分3 化学療法中などセロトニン拮抗薬が効果ある場合 糖尿病がない場合:オランザピン2.5mg1T寝る前 糖尿病がある場合:リフレックス15mg0.5T寝る前 オランザピンの眠気はそれほどではありませんが抗コリン性副作用に注意してください。リフレックスは眠気が強い患者が多いので不眠・不安がある場合にむいています 非経口投与 プリンぺラン1A×3/日静注、または2~3A持続点滴に混注 ポララミン2~3A持続点滴に混注 ノバミン1~2A持続点滴に混注 ハロペリドール0.25~0.5 A持続点滴に混注 (配合変化はそのつど薬剤部に確認してください) |
オピオイド使用時の下剤について
オピオイドによる便秘は耐性ができないため、オピオイド使用中は便秘に注意し、下剤を使用するのが基本です。(下痢をしている人や、貼付剤・注射薬は除く)
一般的に使用される便秘薬は、便をやわらかくする浸透圧性下剤(マグミット、ラクツロースシロップ、モビコールなど)と、腸蠕動を亢進させる大腸刺激性下剤(センノシド、ピコスルファートナトリウムなど)です。
オピオイドによる便秘は、排便回数が少ないことだけではなく、いきまないと出ない、残便感があるといった「排便に関する不快感」がopioid-induced constipation(OIC)と概念化されました。OICに対する薬剤として、末梢性μ受容体拮抗薬のスインプロイクがあります。もともと便通の悪い患者ではオピオイド開始時の予防として使用した方がよいです。
下剤の処方例 |
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マグミット3-6T 便秘時 ピコスルファートまたはセンノシド ↓ スインプロイク0.2mg1T分1朝 (それまでの下剤は適宜調節して使用する) |
弱オピオイド
トラマール
オピオイド作用、弱いノルアドレナリン再取り込み阻害作用、セロトニン再取り込み阻害作用によって鎮痛効果を発揮します。位置付けとしては、弱オピオイドであるリン酸コデインの代替薬です。
モルヒネよりも便秘が少なめで、吐き気はほぼ同等程度です。
トラマール300mg内服=モルヒネ内服30~60mg(5~10:1)。
トラマール300mg内服=200mg持続静脈・皮下投与(1.5:1)。
※トラマール300mg内服は添付文書においてはモルヒネ内服60mgに相当するとされておりますが、個々の状態に応じて安全性を重きにとる場合には少なめの30mgから変更するようにしてください。
100mg/日の徐放製剤もあります(ワントラム錠100mg1日1回)。25mg×4回/日と同じ効果です。
トラマドール37.5㎎とアセトアミノフェン325㎎が配合された、トアラセット配合錠もあります。
非がんの慢性疼痛で、用量変更があまりない場合は、使用しやすいですが、がん患者の場合はアセトアミノフェンとトラマールを別々に調節するほうが対応しやすいです。(錠数は増えますが)
処方例 | |
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トラマールOD錠(25mg) | 4T(100mg)分4から開始 100mg/日ずつ300mg/日まで増量(25mg4T分4→8T分4→12T分4) 疼痛時頓用:1回量分内服(1日2回まで) |
トラマール注(100mg/A) | 70~100mg/日持続皮下注で開始 50%ずつ200mg/日まで増量 疼痛時頓用:1~2時間分早送り |
トラマール2倍希釈持続皮下注 | |
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トラマール注2A(200mg)+生食4ML/合計8mL 注意:トラマール25mg/mL 投与デバイス:テルモインフューザーポンプ使用 | |
開始速度 | 0.1mL/時から開始 |
疼痛時頓用 | 1時間分早送り。効果がないとき2時間分にしても良い |
ベースアップ | 意識清明・RR≧10回を確認して8時間毎に増量可 -0.1mL/時(トラマール 60mg/日) -0.2mL/時(トラマール 120mg/日) -0.3mL/時(トラマール 180mg/日) -0.4mL/時(トラマール 240mg/日) |
トラマール4倍希釈持続静注 | |
トラマール注3A(300mg)+生食18ML/合計24mL 注意:トラマール12.5mg/mL 投与デバイス:シリンジポンプ使用 | |
開始速度 | 0.2mL/時から開始 |
疼痛時頓用 | 1時間分早送り。効果がないとき2時間分にしても良い |
ベースアップ | 意識清明・RR≧10回を確認して8時間毎に増量可 -0.2mL/時(トラマール 60mg/日) -0.4mL/時(トラマール 120mg/日) -0.6mL/時(トラマール 180mg/日) -0.8mL/時(トラマール 240mg/日) |
レペタン
処方例:レペタン坐薬0.2mg×1~3回 → レペタン注0.3mg×2~3回まで。 | |
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頓用 | 1回分 |
有効限界 | 1mg(レペタン注0.3mg×3で鎮痛できなければ早めに強オピオイドに変更してください) |
ソセゴン
精神依存となるリスクが高く、同等の効果を得られるトラマールの使用が可能となったため、長期の連用は控えてください。
処方例:ソセゴン2~4T 分2~4。 | |
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頓用 | ソセゴン1回分 または ソセゴン静・筋注7.5~15mg。 |
有効限界 | 内服4~6T、注射2~3A(連用する場合早めに強オピオイドに変更してください) |
強オピオイド
オキシコドン
【特徴】モルヒネと比較して副作用は同等か、やや精神症状が少ない
【換算】経口オキシコドン10mg=坐薬モルヒネ10mg=経口モルヒネ15mg=静脈・皮下モルヒネ7.5mg/経口オキシコドン40mg=フェントステープ2mg
眠気・便秘がひどくなれば、フェントステープに(一部)変更してください。
処方例 |
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経口投与 オキシコドン徐放錠5mg×2→5mg×3→10mg×2…。頓用オキノーム散(1日投与量の6分の1) 1時間空けて反復可 1日4~6回まで 40mg(=モルヒネ60mg相当)まで増量して除痛が不十分であるか、副作用が悪化したら緩和ケアチームに連絡してください。 皮下・静脈投与 オーダーは麻薬注射薬フォルダから:電子カルテにてフォルダ→オーダー・病院→注射オーダー→鎮痛剤(麻薬) 指示例は症状緩和マニュアルVII-B附録をご利用下さい。 |
フェンタニル
【特徴】モルヒネと比較して副作用は有意に少ない。呼吸困難や咳には効きがわるいとされている。
【換算】フェンタニル皮下・静注600μg=フェントステープ2mg1枚(25μg/hr)=モルヒネ60mg内服
皮下・静脈投与 オーダーは麻薬注射薬フォルダから:電子カルテにてフォルダ→オーダー・病院→注射オーダー→鎮痛剤(麻薬) 指示例は症状緩和マニュアル「VII-B附録」をご利用ください。 | ||||||
経皮投与 現在、経皮吸収型フェンタニル製剤はフェントステープ(1日1回の張り替え)が主に流通しています。 一部、デュロテップMTパッチ(3日毎の張り替え)もあります。 基本的にはその他のオピオイド鎮痛剤から切り替えて使用します。 慎重に観察できれば、初回投与も可ですが、保険適応外の使用法となります。 換算表と切り替え時の投与のタイミングは以下の表を参照ください。 | ||||||
<換算> | ||||||
フェントステープ | 0.5mg | 1mg | 2mg | 4mg | 6mg | 8mg |
デュロテップMTパッチ | 2.1mg | 4.2mg | 8.4mg | 12.6mg | 16.8mg | |
フェンタニル放出速度 | 6.25μg/hr | 12.5μg/hr | 25μg/hr | 50μg/hr | 75μg/hr | 100μg/hr |
フェンタニル 1日投与量 | 0.15mg | 0.3mg | 0.6mg | 1.2mg | 1.8mg | 2.4mg |
フェンタニル注射よりフェントステープへと切り替えていく場合には、フェントステープ貼布後6時間後にフェンタンル注射の投与量を半分量にしてください。 貼布後12時間後にフェンタニル注射を中止してください。 |
初回投与する場合には、フェントステープ0.5mg 1面貼付で開始してください。
増量する場合は、2日以上あけて増量してください。貼付後最高血中濃度への到達は約24時間で、連日貼付によってその後の血中濃度が上昇するためです。
モルヒネ
【特徴】標準的な治療薬。有害な代謝産物が蓄積するためeGFR30以下の慢性腎不全では使用しないでください。
処方例 | |
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経口 | ・モルヒネ徐放剤20mg(MSツワイスロン)30~50%ずつ増量、 頓用:オプソ5mg 1包 1時間空けて反復可 1日4~6回まで 60mgまで増量して除痛不十分であるか、副作用悪化したら緩和ケアチームに連絡してください。 |
経直腸投与 | ・アンペック坐薬10mg×3 8時間ごと 30~50%ずつ増量、 頓用:アンペック坐薬10mg 2時間空けて反復可 1日3回まで 60mgまで増量して除痛不十分であるか、副作用悪化したら緩和ケアチームに連絡してください。 |
皮下・静脈投与 | オーダーは麻薬注射薬フォルダから: 電子カルテにてフォルダ→オーダー・病院→注射オーダー→鎮痛剤(麻薬) 指示例は症状緩和マニュアル「VII-B附録」をご利用ください。 |
その他のオピオイド
タペンタドール(タペンタ®)
【特徴】他のオピオイドより消化器症状が少ない、ノルアドレナリン再取り込作用があるので神経障害性疼痛にも効果が期待できる、とされている。非がん患者での使用経験が主で、500mg/日以下(オキシコドン換算で100mg)での使用。オキシコドン徐放錠+リリカで「ねむいけれど痛い」神経障害性疼痛にオキシコドン徐放錠と併用するとよい場合があります。緩和ケアチームにご相談下さい。
【換算】経口オキシコドン20mg=タペンタ100mg
ヒドロモルフォン(ナルサス®、ナルラピド®、ナルベイン®)
【特徴】モルヒネの誘導体で、モルヒネと同様の薬剤プロフィールを持つが、有害な代謝産物ができないため、腎不全でも使用しやすい。内服(速放剤・徐放剤)、注射がある。
【換算】経口モルヒネ20mg=ナルサス4mg(内服)