放射線治療科

メッセージ

がんの主たる治療法は手術、放射線治療、化学療法(抗癌剤)の3つであり、放射線治療はその一翼を担っています。その特徴は、手術と同じ局所療法でありながら、臓器の形態や機能を温存でき、全身療法である化学療法と異なり、病巣以外への影響が少なく比較的低侵襲の治療が可能なことです。「身体に優しい治療法」「切らずに治す治療法」として高齢者にも広く適応されます。

当院では1980年より放射線治療を開始していましたが、地域がん診療拠点病院指定に伴い放射線治療充実のため、2006年4月新治療設備導入、放射線治療専門医を配置し、独立診療科として開設しました。

当科は他のがん診療科と連携し、治癒可能な病期ではより治癒後の生活の質(QOL)が高い治療を、治癒不能な病期では身体に負担なく症状の緩和が得られるように、国際的な標準治療としての放射線治療の普及に努めています。また、機器を扱うスタッフ(医師・医学物理士・技師・看護師)のさらなる修練・研修を進め、より安全により精密に、地域に国際標準がん医療ならびに先進医療を提供していきます。
放射線治療科部長 山田 和成
緩和放射線科部長 山本 昌市

専門的な治療・活動の紹介

放射線治療科特殊医療装置

治療器VersaHDについて

2018年10⽉よりエレクタ社製放射線治療機旗艦機種であるVersaHDが稼働しました。VersaHDは超⾼線量率ビームであるTrueビームを備え、40cm5mmMLC(Agility)、⾼精度6軸寝台HexaPod、体表光学トラッキングシステムCatalyst、呼吸波形検出システムであるAbchesと組み合わせた4D-CBCTシステムを備えています。
1号機 VersaHD(エレクタ社製)

VersaHDの特徴

4D-CBCT(四次元コーンビームCT)
4DコーンビームCT機能(Symmetry)
呼吸運動のある臓器では、病変に集中した照射野を正確に照射することが難しくなります。4D-CBCTでは内臓器の動きまでリアルタイムに観察し、ビームの再現性を⾼めます。
ビームOFF!!とビームON!!
Surface IGRTシステム(体表⾯光学トラッキングシステム)︓Catalyst(C-RAD社製)
患者体表画像を⽤いて画像誘導放射線治療を⾏います。可視光を⽤いて体表⾯画像を画像化しますので不必要な被曝がなく、簡便に何度でも⾏うことができます。取得された画像を基準画像と⽐較し、位置補正を⾏います。主に標的が体表⾯に近い乳房照射など、また呼吸同期・停⽌システム、照射中のモニタリングの⼀環として⽤いられます。

治療機Novalis Txについて

2010年5⽉末より新設された放射線治療棟へ移転し、放射線治療装置2号機として国内5機⽬、静岡県初となる最新⾼精度放射線治療機Novalis Tx(ノバリス Tx)を導⼊しました。

Novalis Txは汎⽤リニアック(⽶国・バリアン社 Trilogy)に脳外科⼿術ナビゲーションシステムを主に開発しているドイツ・ブレインラボ社の⾼精度画像誘導システムと微細なビーム射出部開⼝部しぼり(マイクロマルチリーフ)を統合した最新型の放射線治療機です。

特徴︓通常の単純照射から最先端⾼精度放射線治療までなんでもできる。
2号機 Novalis Tx(バリアン社・ブレインラボ社)
このNovalis TxのX線ビームを射出する開⼝部絞り(マルチリーフ)は2.5mmきざみで微⼩なものから40cmの広範囲までをカバーします。刻々と変化する⼈間の⾝体の動きに対応するため、3種類の画像誘導装置を備え、治療寝台上で体表の動きを⾚外線で、⾻格の動きをX線透視画像で、内部臓器の動きをCT横断像で把握し、コンピューター計画時との誤差を0.1mmの精度で位置座標を算出。算出したずれをロボット寝台が毎回、⾃動的に補正し精密な治療を実現します。また呼吸運動のリズムにあわせビーム発射を⾏う呼吸同期機能も備えています。従来機では頭部の定位放射線治療(ラジオサージェリー・ピンポイント照 射)で1mm以内の誤差を確保するためには頭蓋⾻のピン固定が必要でしたが、新型機では不要となりました。
治療計画コンピューターも最新バージョンに更新され、頭部のみならず全⾝の腫瘍に対し⾼精度放射線治療(定位放射線治療、強度変調放射線治療︓IMRT(回転IMRT RapidArcを含む)、画像誘導放射線治療︓IGRT)が可能となります。
⾼価な⾼精度医療機器もコンピューター同様、使いこなせなければただの箱です。保守管理が複雑な分、事故のリスクがあがりむしろ有害ともいえます。また腫瘍ごとに異なる⾃然史を理解せず、やみくもに画像に描出される領域のみ照射するだけでは、まともながん治療とはいえません。専⾨医とともに医学物理⼠、放射線治療品質管理⼠を配置、スタッフも増員し、より安全な体制の構築に努めてまいります。

Novalis Txの特徴

2.5mm マイクロマルチリーフ HD120mMLC
ビーム射出⼝のしぼりは2.5mm刻みで微細照射野から22 x 40cmの⼤照射野までほぼ全ての治療状況を可能とします。

(中央8cmが2.5mm幅。上下7cmが5mm幅合計120枚のリーフが微⼩な精密照射野から⼤照射野までをカバーする)
画像誘導(IGRT)機能

On-Board Imaging 装置(OBI)

OBIは治療機側⾯に連結したX線透視装置で、治療寝台上で放射線照射を受ける状態での治療位置照合を可能とします。また、回転撮影することにより寝台上で治療直前のCT画像(CBCT︓cone-beam CT)も取得できます。これによりX線透視では⾒えない軟部臓器や腫瘍病巣の動きを詳細に観察することが可能になり、治療の精度をさらに⾼めることができます。

CBCT画像の例(前⽴腺)

治療計画時との画像と治療寝台上でのずれをCT画像で確認
内部臓器や腫瘍の動き調節することが可能 精度1mm
ExacTrac X-Ray/Robotic 6D couch
治療機本体とは独⽴して、天井、床に固定・埋設した⾚外線カメラと2⽅向からのX線撮影の2つの位置決め機構により、体表および⾻格のコンピューター計画時と位置ずれ量を正確に算出します。誤差の算出精度は0.1mm。そして、位置ずれ量に応じて、ロボット寝台が⾃動的に移動して修正します。
このシステムにより、⾃動かつ⾼精度に位置補正が⾏え、治療時間も短くできます。
Eclipse Ver. 13.6(バリアン社)/ iPlan Ver. 4.5.5(ブレインラボ社)
回転IMRT(Rapid Arc)計画も可能
中咽頭癌例 左右の唾液腺を守るIMRT
通常IMRTよりさらに分布が改善

治療計画コンピューター

  • Eclipse Ver. 13.6(バリアン社)
  • iPlan Ver. 4.5.5(ブレインラボ社)
  • Monaco Ver.6.12(エレクタ社)

放射線治療専⽤CT

Aquilion Exceed LB(キャノン社)
CTシミュレータは、治療計画(どのように放射線を照射するか)を⾏うシステムです。体内にある病変と正常臓器情報を取得し、正常組織を避けながら腫瘍に集中して照射できる、より最適な⼿法を患者個々に検討します。また、腫瘍の動きを加味した「4次元CT」の 撮影が可能となり、肺や上腹部のように呼吸により⼤きく動く部位で、腫瘍や正常臓器の動きを考慮した治療計画を⾏うことができます。

前⽴腺癌密封⼩線源永久挿⼊治療装置

VariSeed Ver.8.0 (ユーロメディック社)
早期前⽴腺癌に対し⼩さなヨウ素(I-125)の棒状線源を会陰部から埋め込むことによって、低侵襲で障害の少ない根治治療が可能となりました。経直腸超⾳波誘導下に前⽴腺内に放射線ヨウ素の⼊ったチタンカプセルを60-100個埋め込みます。カプセルから⾮常に弱いエネルギーの放射線が前⽴腺近傍のみにゆっくりと放出され、癌を治療します。周囲への被爆もなく、通常3泊4⽇⼊院での治療となります。

有痛性多発⾻転移に対する⾮密封⼩線源治療

塩化ストロンチウム-89(メタストロン注)
2008年2⽉6⽇付で当院は静岡県初となる新核種ストロンチウム-89(Sr89)の使⽤認可が下りました。ストロンチウム-89は有痛性⾻転移を有する癌患者の疼痛緩和を⽬的として開発された治療⽤放射線医薬品です。本薬は標準的鎮痛薬では除痛が不⼗分で、外部放射線治療が適応困難な多発性⾻転移の⾻性疼痛の緩和に適しています。
ストロンチウム-89という物質からはベーター線という弱い放射線が周囲に放出されます。放出されるベーター線は平均3mmほどの範囲までしか届きません。ストロンチウムは⾻の成分であるカルシウムと性質が似ているため注射されると⾻に運ばれ、がんにより代謝が活発となった⾻転移部位に⻑くとどまり、転移部位のみに放射線があたることによって痛みがやわらぐと考えられています。

⾻転移を有する去勢抵抗性前⽴腺癌におけるアルファ線放出放射線医薬品  塩化ラジウム(223Ra)注射薬  (ゾーフィゴ静注)

2017年4⽉より当院でラジウム注射薬(ゾーフィゴ静注)の使⽤認可が下りました。
ゾーフィゴ静注は⽇本初のアルファ線放出放射線医薬品です。⾻転移を有する去勢抵抗性前⽴腺癌患者において、全⽣存期間を延⻑する効果があります。また病的⾻折などが⽣じるまでの期間を延⻑しました。
放射性物質のラジウム-223が、代謝が活発になっている⾻の転移巣に集まります。ラジウム-223から放出するアルファ線の⼒によって、癌細胞のDNA⼆重鎖を強⼒に切断し、⾻に転移した癌細胞の増殖を抑えます。放出されるアルファ線は100μm未満しか⾶びませんので正常組織への影響は限定的です。
ゾーフィゴ静注は4週間毎に1回、静脈注射します。最⼤6回の注射を受けたら、ゾーフィゴ静注による治療は終了です。

学会認定等

  • ⽇本放射線腫瘍学会認定協⼒施設
  • ⽇本医学放射線学会専⾨医修練機関

⽤語解説

下記の添付ファイルにて⽤語解説をご覧いただけます。

⽤語解説[PDF:271.9KB]