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放射線治療科部長
山田和成
緩和放射線科部長
山本昌市
言うまでもなく、日本人の死因のトップは癌であり、高齢化に伴い罹患率、死亡率ともに上昇を続けています。癌は体中のどの組織からでも生じます。また統計では一生のうち、ふたりにひとりは癌に罹患します。すなわち癌は誰もが罹患する、最も多い病気であるといえます。
癌の主たる治療法は手術、放射線治療、化学療法(抗癌剤)の三つであり、放射線治療はその一翼を担っています。米国では癌患者のおよそ半数が放射線治療を受けていますが、日本では専門医・技師・物理士などの育成の少なさもあり、普及が遅れていました。放射線治療の特徴は、手術と同じ局所療法でありながら、臓器の形態や機能を温存でき、全身療法である化学療法と異なり、病巣以外への影響が少なく比較的低侵襲の治療が可能なことです。「身体に優しい治療法」「切らずに治す治療法」として高齢者にも広く適応されます。近年のコンピューター技術の急速な発達に伴い、放射線治療も一昔前とは様変わりしました。
当科は他のがん診療科と連携し、治癒可能な病期ではより治癒後の生活の質(QOL)が高い治療を、治癒不能な病期では身体に負担なく症状の緩和が得られるように、国際的な標準治療としての放射線治療の普及に努めています。さらに定位放射線治療(SRS/SRT)、強度変調放射線治療(IMRT)に代表される高精度治療の導入に努めています。
2010年1月に放射線治療棟が完成し、2010年5月より高精度放射線治療機Novalis Txが稼動しています。
2017年には骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌におけるアルファ線放出放射線医薬品塩化ラジウム(Ra223)注射薬(ゾーフィゴ静注)の診療を開始しました。
1号機であるバリアン社製Clinac 21EXが2006年5月に稼働してより12年となったため、がん診療連携拠点病院に対する静岡県平成29年度がん医療均てん化補助金交付を受け、2018年に新規治療機に更新となりました。新治療機はエレクタ社製放射線治療機の最新旗艦機種であるVersaHDです。VersaHDではTruebeamを備え、最新の高精度治療に対応しています。これにより当院で行う全ての放射線治療が高精度化となりました。
機器を扱うスタッフ(医師・医学物理士・技師・看護師)のさらなる修練・研修を進め、より安全により精密に、地域に国際標準がん医療ならびに先進医療を提供していきます。
4D-CBCT(四次元コーンビームCT)
呼吸運動のある臓器では, 病変に集中した照射野を正確に照射することが難しくなります。4D-CBCTでは内臓器の動きまでリアルタイムに観察し, ビームの再現性を高めます。
Surface IGRTシステム(体表面光学トラッキングシステム):Catalyst (C-RAD社製)
患者体表画像を用いて画像誘導放射線治療を行います。可視光を用いて体表面画像を画像化しますので不必要な被曝がなく, 簡便に何度でも行うことができます。取得された画像を基準画像と比較し、位置補正を行います。主に標的が体表面に近い乳房照射など、また呼吸同期・停止システム、照射中のモニタリングの一環として用いられます。
Novalis Txは汎用リニアック(米国・バリアン社 Trilogy)に脳外科手術ナビゲーションシステムを主に開発しているドイツ・ブレインラボ社の高精度画像誘導システムと微細なビーム射出部開口部しぼり(マイクロマルチリーフ)を統合した最新型の放射線治療機です。
特徴:通常の単純照射から最先端高精度放射線治療までなんでもできる。
このNovalis TxのX線ビームを射出する開口部絞り(マルチリーフ)は2.5mmきざみで微小なものから40cmの広範囲までをカバーします。刻々と変化する人間の身体の動きに対応するため、3種類の画像誘導装置を備え、治療寝台上で体表の動きを赤外線で、骨格の動きをX線透視画像で、内部臓器の動きをCT横断像で把握し、コンピューター計画時との誤差を0.1mmの精度で位置座標を算出。算出したずれをロボット寝台が毎回、自動的に補正し精密な治療を実現します。また呼吸運動のリズムにあわせビーム発射を行う呼吸同期機能も備えています。従来機では頭部の定位放射線治療(ラジオサージェリー・ピンポイント照射)で1mm以内の誤差を確保するためには頭蓋骨のピン固定が必要でしたが、新型機では不要となりました。
治療計画コンピューターも最新バージョンに更新され、頭部のみならず全身の腫瘍に対し高精度放射線治療(定位放射線治療、強度変調放射線治療:IMRT(回転IMRT RapidArcを含む)、画像誘導放射線治療:IGRT)が可能となります。
高価な高精度医療機器もコンピューター同様、使いこなせなければただの箱です。保守管理が複雑な分、事故のリスクがあがりむしろ有害ともいえます。また腫瘍ごとに異なる自然史を理解せず、やみくもに画像に描出される領域のみ照射するだけでは、まともながん治療とはいえません。専門医とともに医学物理士、放射線治療品質管理士を配置、スタッフも増員し、より安全な体制の構築に努めてまいります。
2.5mm マイクロマルチリーフ HD120mMLC
(中央8cmが2.5mm幅。上下7cmが5mm幅合計120枚のリーフが微小な精密照射野から大照射野までをカバーする)
画像誘導(IGRT)機能
OBIは治療機側面に連結したX線透視装置で、治療寝台上で放射線照射を受ける状態での治療位置照合を可能とします。また、回転撮影することにより寝台上で治療直前のCT画像(CBCT:cone-beam CT)も取得できます。これによりX線透視では見えない軟部臓器や腫瘍病巣の動きを詳細に観察することが可能になり、治療の精度をさらに高めることができます。
治療計画時との画像と治療寝台上でのずれをCT画像で確認
内部臓器や腫瘍の動き調節することが可能 精度1mm
ExacTrac X-Ray/Robotic 6D couch
このシステムにより、自動かつ高精度に位置補正が行え、治療時間も短くできます。
Eclipse Ver. 13.6(バリアン社)/ iPlan Ver. 4.5.5(ブレインラボ社)
中咽頭癌例 左右の唾液腺を守るIMRT
通常IMRTよりさらに分布が改善
2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
---|---|---|---|
新規患者数(新患人数) | 275 | 284 | 251 |
男 | 183 | 187 | 157 |
女 | 92 | 97 | 94 |
放射線治療患者実人数(新患+再患) | 358 | 377 | 361 |
年間延べ治療人数 | 6,568 | 6,170 | 5,842 |
延べ治療件数(部位数) | 7,136 | 6,447 | 6,222 |
延べ治療門数 | 19,388 | 19,141 | 16,604 |
新規患者疾患内容
2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
---|---|---|---|
脳腫瘍 | 3 | 4 | 5 |
頭頚部腫瘍 | 5 | 3 | 3 |
肺・縦隔 | 98 | 97 | 88 |
うち肺癌 | 93 | 92 | 87 |
乳癌 | 45 | 42 | 39 |
消化器系 | 31 | 40 | 36 |
食道癌 | 9 | 7 | 7 |
胃・腸 | 11 | 17 | 14 |
肝胆膵 | 15 | 16 | 15 |
泌尿器系 | 71 | 66 | 58 |
前立腺癌 | 58 | 52 | 47 |
膀胱癌 | 8 | 12 | 7 |
腎癌 | 5 | 1 | 3 |
婦人科癌 | 0 | 3 | 1 |
血液リンパ | 9 | 12 | 12 |
悪性リンパ腫 | 8 | 11 | 12 |
骨髄腫 | 0 | 0 | 0 |
その他 | 9 | 15 | 9 |
新規患者内容
年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 |
---|---|---|---|
根治照射 | 197 | 193 | 155 |
緩和照射 | 78 | 91 | 96 |
脳転移 | 54 | 59 | 74 |
骨転移 | 58 | 59 | 62 |
特殊放射線治療 | |||
肺定位照射 | 23 | 26 | 21 |
体幹部定位照射(肺以外) | 6 | 5 | 7 |
頭部定位照射 | 28 | 42 | 63 |
前立腺I-125 | 4 | 3 | 3 |
Sr-89内用療法 | 0 | 0 | 0 |
Ra-223 | 0 | 0 | 0 |
強度変調放射線治療(IMRT) | 123 | 113 | 120 |
氏名 | 職位 | 卒年 | 専門領域・認定医・専門医 |
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山田 和成 やまだ かずなり | 部長 | 1991年 | 日本医学放射線学会認定指導者 日本医学放射線学会/日本専門医機構放射線専門医 日本放射線腫瘍学会認定医 日本乳癌学会乳腺専門医 日本がん治療認定医機構による暫定教育医 日本がん治療認定医機構によるがん治療認定医 検診マンモグラフィ読影認定医 日本食道学会食道科認定医 臨床研修指導医講習会修了 がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了 |
山本 昌市 やまもと しよういち | 部長 | 1992年 | 日本医学放射線学会認定専門医/指導者 日本放射線腫瘍学会認定医 日本がん治療認定医機構による暫定教育医 がん医療に携わる医師に対するコミュニケーション技術研修会修了 臨床研修指導医養成講習会修了 臨床研修プログラム責任者養成講習会修了 |
医師以外のスタッフ
うち医学物理士 1名
放射線治療品質管理士 1名
日本放射線治療専門放射線技師認定者1名
放射線治療併任看護師7名
うち放射線療法認定看護師 1名
放射線治療装置
1号機 VersaHD (エレクタ社製)
2号機 Novalis Tx(バリアン社・ブレインラボ社)
治療計画コンピューター
iPlan Ver. 4.5.5(ブレインラボ社)
Monaco Ver.6.12(エレクタ社)
放射線治療専用CT
CTシミュレータは、治療計画(どのように放射線を照射するか)を行うシステムです。体内にある病変と正常臓器情報を取得し、正常組織を避けながら腫瘍に集中して照射できるより最適な手法を患者個々に検討します。また、腫瘍の動きを加味した「4次元CT」の 撮影が可能となり、肺や上腹部のように呼吸により大きく動く部位で、腫瘍や正常臓器の動きを考慮した治療計画を行うことができます。
前立腺癌密封小線源永久挿入治療装置
早期前立腺癌に対し小さなヨウ素(I-125)の棒状線源を会陰部から埋め込むことによって、低侵襲で障害の少ない根治治療が可能となりました。経直腸超音波誘導下に前立腺内に放射線ヨウ素の入ったチタンカプセルを60-100個埋め込みます。カプセルから非常に弱いエネルギーの放射線が前立腺近傍のみにゆっくりと放出され、癌を治療します。周囲への被爆もなく、通常3泊4日入院での治療となります。
有痛性多発骨転移に対する非密封小線源治療
2008年2月6日付で当院は静岡県初となる新核種ストロンチウム-89(Sr89)の使用認可がおりました。ストロンチウム-89は有痛性骨転移を有する癌患者の疼痛緩和を目的として開発された治療用放射線医薬品です。本薬は標準的鎮痛薬では除痛が不十分で、外部放射線治療が適応困難な多発性骨転移の骨性疼痛の緩和に適しています。
ストロンチウム-89という物質からはベーター線という弱い放射線が周囲に放出されます。放出されるベーター線は平均3ミリほどの範囲までしか届きません。ストロンチウムは骨の成分であるカルシウムと性質が似ているため注射されると骨に運ばれ、がんにより代謝が活発となった骨転移部位に長くとどまり、転移部位のみに放射線があたることによって痛みがやわらぐと考えられています。
骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌におけるアルファ線放出放射線医薬品 塩化ラジウム(223Ra)注射薬 (ゾーフィゴ静注)
ゾーフィゴ静注は日本初のアルファ線放出放射線医薬品です。骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌患者において、全生存期間を延長する効果があります。また病的骨折などが生じるまでの期間を延長しました。
放射性物質のラジウム-223が、代謝が活発になっている骨の転移巣に集まります。ラジウム-223から放出するアルファ線の力によって、癌細胞のDNA二重鎖を強力に切断し、骨に転移した癌細胞の増殖を抑えます。放出されるアルファ線は100μm未満しか飛びませんので正常組織への影響は限定的です。
ゾーフィゴ静注は4週間毎に1回、静脈注射します。最大6回の注射を受けたら、ゾーフィゴ静注による治療は終了です。
- 日本放射線腫瘍学会認定協力施設
- 日本医学放射線学会専門医修練機関
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