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ロボット支援手術

1. 手術支援ロボット“ダ・ヴィンチ”について



手術支援ロボット“ダ・ヴィンチ”は米国で開発され、1999年にIntuitive Surgical社から販売、導入されています。当院で導入しているダ・ヴィンチサージカルシステムでは、術者は3次元ハイビジョン画像を見ながら人の手ではできない複雑な動きを可能にしたロボットアーム、ロボット鉗子を操作して手術を行います。鮮明な画像情報をもとに、より複雑で細かな、手ブレのない手術操作ができるため、従来の開胸手術、内視鏡手術よりもさらに正確で安全、低侵襲な手術を可能にします。当科ではロボット支援手術の国内資格を取得し、2018年9月からダ・ヴィンチによる低侵襲手術を始めました。

2. 呼吸器外科領域におけるロボット支援手術の適応疾患

2018年度診療報酬改定では、保険適応されることになった呼吸器外科領域のロボット支援手術は以下の3つです。

① 肺悪性腫瘍手術(肺葉切除、区域切除)
② 悪性縦隔腫瘍手術
③ 良性縦隔腫瘍手術

主な対象疾患としては、①原発性肺がん、②胸腺腫、胸腺がんなどの悪性縦隔腫瘍、③神経原性腫瘍などの良性縦隔腫瘍です。
当科では上記いずれの疾患に対しても手術を行える準備を整えています。
ただし患者様の病状や背景は様々です。病状のみならず、解剖学的状況や併存疾患、既往症などによってはロボット支援手術が適さない場合もあります。私たちは患者様の状況をよく検討し、ロボット支援手術が最適と思われる方にお勧めしています。

① 「肺がん」に対するロボット支援手術

手術は全身麻酔下に行います。肺がんの存在する胸に1cm程度の小切開を5,6か所置き、二酸化炭素を胸腔内に送気して術野を展開しながら肺切除およびリンパ節郭清を行います。術者は患者様から少しはなれた位置で、サージョンコンソールを操作して手術を行います。患者様の横にいる2名の助手(医師)が手術をサポートします。ロボット支援により、①多関節を有する鉗子を使用した自然な方向での剥離操作が可能になる、②実際の術者の手の動きよりも鉗子先端の動きを小さくすることで繊細な操作が可能になる(スケーリング機能)、③双眼視での3D画像により術者はあたかも胸腔内にいるかのような立体的な近接画面を見ながら手術ができる、④コンピュータ制御で手振れが補正される、などの利点により精度が高く、安全な手術を行うことができます。胸腔鏡下手術と比べると創の数はやや増えますが、一つ一つの創が小さく疼痛軽減につながります。

② 「縦隔腫瘍」に対するロボット支援手術

縦隔腫瘍に対するロボット支援手術の適応疾患は概ね従来の胸腔鏡下手術と同様ですが、特に胸腔上部や横隔膜上といった胸腔内の狭い部位に存在する病変に対しては大きなメリットがあります。肺がんに対するロボット支援手術の場合と同様に、全身麻酔下に手術を行います。1cmの小切開を胸部の3, 4か所に置き、二酸化炭素を胸腔内に送気して術野を展開しながら縦隔腫瘍を切除します。術者は患者様から少しはなれた位置で、サージョンコンソールを操作して手術を行います。患者様の横にいる助手(医師)が手術をサポートします。創の位置は病変部位により異なります。

3. 予想される合併症、危険性と対処

手術に伴う合併症は主に以下のようなものが考えられます。

【術中に起こりうる合併症】
① 出血:出血させない鉗子操作など術者は細心の注意を払いながら手術を行っています。万一出血した時は出血をコントロールしつつ開胸手術に移行するなど迅速に対応します。
② 肺などの臓器損傷:鉗子操作に細心の注意を払うことは言うまでもありません。視野の外での操作を行わない、操作部位だけでなく術野全体に気を配るなどの注意をしています。
③ 神経損傷:横隔神経、迷走神経、反回神経の損傷:ロボット支援手術では組織の把持、牽引などを行う場合、力の入れ具合が触覚として術者に伝わりません。そこで術者は視覚による補正ができるようトレーニングを積んでいます。
④ 胸壁損傷:ロボットアームを無理な角度で操作すると肋骨骨折などの胸壁を損傷する可能性があります。患者様の横にいる助手が胸壁に過度の負荷がかからぬよう常に気を配っています。

【主に術後に起こりうる合併症】
⑤ 創部感染、術後肺炎、肺瘻、気管気管支瘻、膿胸、乳び胸、肋間神経痛など。
⑥ 心筋梗塞、脳梗塞、肺血栓塞栓症、不整脈など。

これらは全身麻酔で行う手術全般に起こりうる合併症であり、頻度は低いものの重篤な合併症であるため細心の注意を払って予防に努め、万一発生した場合には迅速に対処します。

術中合併症の多くはロボット支援手術特有のものではなく、従来の開胸手術や胸腔鏡手術でも起こり得ることですが、常にこれらの事態を想定して、必要時には速やかに開胸手術に移行できる準備や、止血に必要な物品を整えています。また、術者はトレーニングの段階で出血時の対処などの教育を受け、シミュレーションを繰り返しています。ロボット支援手術の特性(触覚がないため組織の把持、牽引などの力加減が分かりにくい)をよく理解し合併症の発生リスクを可能な限り低減するように教育を受けています。また、ロボットは機械ですので機械そのものの不具合も想定されます。そのような状況での対処については医師のみならず臨床工学技士などスタッフ全員がトレーニングを受けています。